2017 Fiscal Year Research-status Report
植物のDNA倍加誘導におけるエピジェネティック制御メカニズムの解明
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17K15415
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Research Institution | Nara Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
高塚 大知 奈良先端科学技術大学院大学, バイオサイエンス研究科, 助教 (70633452)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 細胞周期 / DNA倍加 / エピジェネティックス / クロマチン構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者は、G2期にCDKB1が活性阻害されATXR6の活性が低下し、H3K27me1が消失することで「有糸分裂型染色体構造(凝縮型)」から「DNA倍加型染色体構造(脱凝縮型)」へ変換し、DNA倍加への移行が可能になるとの着想を得た。つまり、CDKB1によるATXR6の活性化の有無が有糸分裂・DNA倍加移行への決定要因のひとつであるという可能性が強く考えられる。この新規な概念を確証するため、研究期間内に以下の点を明らかにしたいと考えている。 1)G2期のH3K27me1低下の染色体構造への影響の解析;特定の細胞周期ステージを可視化するマーカラインを用いてG2期細胞での染色体構造の観察を行った。本研究ではDAPI染色によりセントロメリックなヘテロクロマチンの観察を行った。その結果、DNA倍加へ移行する細胞のG2期核ではヘテロクロマチンの減少が観察された。特にcdkb1変異体では顕著な低下が見られたことから、CDKB1がクロマチン構造を凝縮させる働きがあることが示唆された。 2)変異体の作出によるATXR6のDNA倍加における役割;既存のatxr6変異体は機能が完全に欠損していないためH3K27me1の低下が顕著でない。そこで、ゲノム編集技術を用いてatxr6機能欠損変異体の作出を試み、完全な機能欠損変異体を得ることができた。現在表現型の解析を進めている。 3)CDKB1-ATXR6経路によるH3K27me1を倍加移行時に抑制する仕組み;in vitroリン酸化アッセイを行い、CDKB1がATXR6を直接リン酸化するかを検証した。その結果、ATXR6はCDKB1によるリン酸化を受けないことが明らかになった。一方、ATXR6と協調的に働き、H3K27me1を伴うヘテロクロマチン化を促進する働きを持つFAS1がCDKB1によるリン酸化を受けることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、DNA倍加に移行する際に、G2期にクロマチンが緩和することを明らかにすることができた。また、cdkb1変異体を用いた解析により、CDKB1はG2期のクロマチン構造を促進することでDNA倍加への移行を阻害することを示唆する結果が得られた。計画通り、atxr6機能欠損変異体を単離することができ、ATXR6のDNA倍加に対する役割を解析する準備が整った。 一方、期待された「CDKB1によるATXR6のリン酸化による活性制御」は検出されなかった。このことから、CDKB1はATXR6以外の因子の制御を行うことでクロマチン構造を制御することが示唆された。一方、ATXR6と協調的にクロマチン構造を制御することが知られているFAS1がCDKB1によりリン酸化されることを突き止めた。以上の結果から、当初の予想とは異なり、CDKB1-FAS1経路という新規な経路によるDNA倍加移行制御メカニズムの存在が示唆された。 以上より、おおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
CDKB1がFAS1を直接リン酸化することが明らかになったので、今後はCDKB1-FAS1経路のDNA倍加阻害における重要性の検証を進めていく。 1. cdkb1変異体でのG2期細胞のクロマチン動態の詳細な観察;今年度、細胞周期マーカーを用いてG2期細胞を同定し、ヘテロクロマチンの状態を観察することができた。しかし、細胞周期マーカーではG2期の同定に不十分である可能性が考えられる為、セルソーターを用いてG2期細胞のみを単離し、DAPI染色や免疫染色を行い、クロマチンの凝縮状態をより正確に評価していく予定である。 2. CDKB1によるFAS1のリン酸化部位の同定;CDKB1がFAS1のどの部位をリン酸化するか、質量分析装置を用いて解析する。具体的には、大腸菌で産生させたFAS1をCDKB1によりリン酸化させるin vitro解析と、植物体内で発現させたFAS1-RFPを免疫沈降により精製し、質量分析に供するin vivo解析の二点を行う。 3. CDKB1によるFAS1のリン酸化がDNA倍加に与える影響の評価;CDKB1がFAS1をリン酸化することがDNA倍加にどのような役割を持つかを明らかにするため、1で同定したFAS1のリン酸化部位を非リン酸化型にした変異型FAS1をfas1変異体に導入し、高倍数性の表現型が抑圧されるかどうか解析する。また、リン酸化部位を恒常的リン酸化型にしたFAS1をcdkb1変異体に導入し、cdkb1変異体の高倍数性の表現型が抑圧されるかを解析する。 今後これらの解析を通じて、「細胞周期の進行」と「クロマチンの構造変換」を同調させる仕組みを明らかにし、未だ不明な点の多いDNA倍加移行メカニズムの全貌解明に迫りたいと考えている。
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Causes of Carryover |
平成29年度奈良先端科学技術大学院大学支援財団支援事業の対象となった。本助成はイネでDNA倍加を起こすことを目的としており、本科研費とは目的が異なるが、協調的に研究を進めた結果、当初予定したよりも支出額が少なくなった。平成30年度に関しては、申請時の計画通りの予算遂行を行う。加えて、FACSを用いた解析が当初の想定よりも多くの消耗品を必要とするので、平成29年度の未使用分を充当する予定である。
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Research Products
(3 results)