2017 Fiscal Year Research-status Report
皮膚恒常性に関わる脂質代謝系の包括的理解を目指した網羅的メタボローム解析
Project/Area Number |
17K15452
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
永沼 達郎 慶應義塾大学, 薬学部(芝共立), 助教 (60779619)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 皮膚 / 脂質 / 質量分析 / リピドミクス |
Outline of Annual Research Achievements |
皮膚の恒常性は,多種多様な脂質代謝物により制御され得ることがこれまでの研究から明らかになっている。また,アトピー性皮膚炎や乾癬など,皮膚疾患を発症した患者の皮膚では脂質組成に異常を生じていることが知られており,皮膚の恒常性と脂質代謝系には密接な関係があると考えられている。しかし,これまでの研究では疾患発症後の脂質組成に着目されており,疾患発症に至る過程における継時的な解析は行われていない。また,特定の脂質代謝系にのみ焦点があてられていた。そのため,病態に潜む真の原因となる脂質代謝異常が隠されている可能性があった。そこで本研究では,皮膚疾患モデルマウスやケラチノサイトの培養分化モデルを用いて,皮膚恒常性が変化する際の継時的かつ包括的な脂質代謝バランス変化を解析し,病態の原因となる脂質代謝系の決定および皮膚恒常性を制御し得る新たな脂質代謝系の発見を目指した。 当該年度は,アトピー性皮膚炎の自然発症モデルSPADE(J Clin Invest. 2016, 126 (6))および,ヒトケラチノサイト初代培養細胞の3次元再構成モデルを用いて,継時的なリピドミクス解析を行なった。SPADEのリピドミクスでは,アトピー性皮膚炎発症に先立ち様々な脂質分子に変化が見い出された。特に大きな変化として,NDSタイプの極長鎖セラミドとその前駆体であるジヒドロスフィンゴシンのSPADEでの顕著な減少がみられ,アトピー発症前のバリア機能破綻と関連している可能性が示唆された。また,3次元再構成モデルのリピドミクスでは,過去の知見通り,分化が進むにつれて皮膚バリア機能に不可欠である極長鎖セラミドや極長鎖脂肪酸が増加する一方,ほとんどのリン脂質は減少した。しかし,リン脂質の中で,多価不飽和脂肪酸を含むビスモノアシルグリセロリン酸(BMP)のみが分化後期に特徴的に増加することを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
皮膚における脂質解析の条件確立を完了した。SPADEのリピドミクスについては,病態の原因候補としてNDSセラミド-ジヒドロスフィンゴシン代謝系を見出し,既にその妥当性の検証とメカニズムの解明を目指して研究を進めている。 また,3次元再構成モデルのリピドミクスでは,分化依存的に多価不飽和脂肪酸含有BMPが増加することを見出した。BMPについてはこれまで皮膚における機能が報告されておらず,その生理的意義解明に向けて現在研究を進めている。以上,概ね予定通り研究が進行している。
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Strategy for Future Research Activity |
SPADEについては,アトピー発症前からNDSセラミド-ジヒドロスフィンゴシン代謝系に異常を生じるメカニズムを明らかにするため,代謝に関わる酵素のmRNAおよびタンパク質発現量や,翻訳後修飾を解析する。また,初年度の解析では,同定できなかった分子は未解析であったが,未同定の分子の中にもSPADEにおいて変化している分子種が存在しており,アトピー発症に寄与し得る新規の脂質分子の発見につながる可能性があることから,今後はそれらの分子についてもスペクトルを解析して構造を明らかにするとともに,アトピー発症への関与を検証する。 3次元再構成モデルについては,初年度の解析で見出した多価不飽和脂肪酸含有BMPの皮膚における機能解明を目指す。そのためには,皮膚において多価不飽和脂肪酸含有BMPが合成できない動物や細胞が必要であるが,BMPの生合成経路は未だ不明である。BMPは,ホスファチジルグリセロール(PG)を前駆体として,アシル基の転移反応を介して生合成されると考えられるため,候補となるホスホリパーゼやアシルトランスフェラーゼをケラチノサイトにおいてノックダウンし,BMPの合成活性を評価することで合成酵素の同定を目指す。同時に,ケラチノサイトの増殖や分化に与える影響を評価する。さらに,同定した酵素のノックアウトマウス作製に着手する。
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Causes of Carryover |
購入予定であった試薬の納期が年度明けになったことから,次年度使用分が発生した。当初購入予定であった試薬の購入に充てる計画である。
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