2017 Fiscal Year Research-status Report
がん治療後に持続する情動障害におけるプロスタノイド受容体CRTH2の役割の解明
Project/Area Number |
17K15461
|
Research Institution | Setsunan University |
Principal Investigator |
尾中 勇祐 摂南大学, 薬学部, 助教 (90749003)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 薬学 / 脳・神経 / 薬理学 / プロスタグランジン / がん / 行動解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでに、我々は、がん治療後に持続する情動障害にプロスタグランジン(PG)D2受容体シグナルが関与することを、モデル動物を用いた行動薬理学的検討により明らかにしてきた。今年度は、がん治療後に持続する情動障害のモデル動物の脳内において、CRTH2シグナルが関連する領域を探索するとともに、抗がん剤がマウスの神経・精神機能に与える影響について評価した。 がん細胞の投与により形成された腫瘍を切除したマウスの脳内において、PGの産生を律速する酵素であるシクロオキシゲナーゼ(COX)の発現量を解析したところ、海馬選択的にCOX-1のタンパク質の発現増加が認められた。このことは、がん治療後のマウスの海馬において、PGシグナルが変化する可能性を示している。一方で、ウェスタンブロット法による、モデル動物の海馬における各種細胞マーカーの発現解析では、神経細胞、アストロサイト、オリゴデンドロサイトマーカーの発現変化は認められなかった。すなわち、がん治療後に持続する情動障害のモデル動物の海馬において、これらの細胞数は変化していない可能性が考えられる。 また、抗がん剤の投与が神経・精神機能に与える影響を解析する目的で、マウスへのシクロホスファミドの単回投与が脳内の細胞増殖や精神行動に与える影響を解析した。その結果、神経細胞の増殖が認められる海馬歯状回において、シクロホスファミドは、細胞増殖を有意に抑制した。情動・認知機能について、シクロホスファミドは、認知機能に関係する行動を障害する傾向を示したが、統計学的に有意な変化ではなかった。このことから、抗がん剤の単回投与は、神経細胞を含む脳内細胞の増殖を抑制するものの、顕著な精神機能の変化は引き起こさないことが明らかとなった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
がん治療後に持続する情動障害のモデル動物を用いた検討について、海馬におけるPGシグナルが亢進する可能性を見出すことができ、一定の成果が得られている。一方で、抗がん剤を用いた検討については、動物室の改修工事により、3か月間、行動解析が実施できず、やや遅れているものの、シクロホスファミドが神経細胞の増殖を抑制する知見が得られていることから、少なくとも抗がん剤による神経細胞の増殖抑制へのCRTH2シグナルの関与について、早急に解析が可能な状況である。以上のことから、全体としてはおおむね順調に進展していると考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
がん治療後に持続する情動障害について、海馬におけるPGD2-CRTH2シグナルの亢進が社会性行動に与える影響を評価する目的で、CRTH2アゴニストの海馬内投与を行い、社会性行動試験を行う予定である。また、モデル動物の海馬におけるCOX-1発現変化の詳細について、免疫染色を行い、発現細胞種やその細胞の形態変化を観察することで、COX-1の発現変化と脳内細胞の機能変化との関係を解析する予定である。 また、シクロホスファミド投与後の神経増殖におけるCRTH2シグナルの関与を、CRTH2アンタゴニストを用いた検討で明らかにするとともに、シクロホスファミド投与後に、拘束ストレスなどのストレス負荷を行い、行動解析を行うことで、精神行動の変化が誘発されるかどうかを解析する予定である。
|
Causes of Carryover |
動物実験施設の改修工事により、行動解析等、本来行うべき実験が一部未実施のため、翌年度への繰り越し金が生じた。未実施の実験については、翌年度の実験動物の購入費に充てる予定である。
|
Research Products
(14 results)