2017 Fiscal Year Research-status Report
環境中キノン体によるレドックスシグナル伝達と高求核性イオウ化合物によるその制御
Project/Area Number |
17K15489
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
安孫子 ユミ 筑波大学, 医学医療系, 助教 (80742866)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | レドックスシグナル / 9,10-フェナントラキノン / イオウ化合物 / 活性酸素種 / キノン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,レドックス活性を有するキノン体(AhQs)によるレドックスシグナル伝達機序および当該シグナル制御における高求核性イオウ化合物の関与の有無を明らかとし,毒性学や予防医学において高求核性イオウ化合物の重要性を提示することを目的とする. H29年度は,9,10-フェナントラキノン(9,10-PQ)をAhQsのモデル化合物とし,9,10-PQ依存的PTP1B/EGFRシグナル伝達活性化における活性酸素種(ROS)の関与およびUPLC-MS/MSによる酸化修飾部位の同定を行った.ヒト上皮様細胞癌由来細胞株(A431細胞)を9,10-PQに曝露すると,濃度・時間依存的なEGFR/ERKシグナルの活性化が認められた.本リン酸化はEGFRの中和抗体で阻害されなかったことから,リガンド依存的なEGFRのリン酸化ではないことが示された.また,ポリエチレングリコール結合カタラーゼの前処理により,9,10-PQ曝露によって産生されたROSを消去するとEGFR/ERKシグナルの活性化が抑制されたことから,9,10-PQ曝露によって見られたEGFRおよびERKのリン酸化にはROSが関与することが示された.9,10-PQを曝露したA431細胞のPTPs活性を検討した結果,9,10-PQ曝露濃度依存的なPTPs活性の阻害が認められた.さらに,精製ヒトPTP1Bタンパク質 (hPTP1B) を用いた検討により,内在性ROSにより修飾されるCys215が9,10-PQ由来のROSによっても酸化修飾される結果を得た. H29年度の研究により,9,10-PQはA431細胞内でのレドックスサイクルによるROS産生を介してPTPsを酸化修飾により不活性化することで,EGFR/ERKシグナルを活性化することが明らかとなった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H29年度は,9,10-PQ依存的PTP1B/EGFRシグナル伝達活性化におけるROSの関与およびUPLC-MS/MSによる酸化修飾部位の同定を計画しており,それを実行した.その結果,9,10-PQはA431細胞内でのレドックスサイクルによるROS産生を介してPTPsを酸化修飾し阻害することで,EGFR/ERKシグナルを活性化することが明らかとなった.また,精製ヒトPTP1Bタンパク質およびUPLC-MS/MSを用いた検討で,9,10-PQにより産生されるROSは,少なくともPTP1Bの活性部位にあるCys215を酸化修飾することで本酵素活性を阻害することが明らかとなった.さらに,PTP1B活性における高求核性イオウ化合物の役割を検討するために,そのモデル化合物として二硫化ナトリウム (Na2S2) をPTP1Bと反応させたところ,PTP1Bのシステイン残基がS-sulfhydryl化(-SSH)され,PTP活性が阻害された.S-sulfhydryl化による本活性阻害は可逆的であったことから,S-sulfhydryl化されたPTP1Bが酸化修飾(-SSOH, -SSO2H, -SSO3H)を受けても,その可逆性が維持されることが示唆された.本結果は,H30年度以降に予定される研究の一部であり,研究課題の順調な進行が期待できる. これらの成果から,本研究はおおむね順調に進展していると言える.
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Strategy for Future Research Activity |
個体を用いて9,10-PQによるPTP1B/EGFR/ERKシグナル活性化,および9,10-PQによるPTP1B/EGFR/ERKシグナル活性化における高求核性イオウ化合物の役割を今後検討していく予定である.個体を用いた検討では,9,10-PQをICRマウスの気管内に投与し,9,10-PQ曝露による時間および濃度依存的な当該シグナルのリン酸化をウエスタンブロット法で検出する.先行研究におけるICRマウスへの9,10-PQ気管内投与の際に用いた濃度を目安に濃度依存性を検討する.また,Na2S2にA431細胞を処置した後,9,10-PQを曝露しEGFR/ERKシグナルおよび総脱リン酸化酵素活性の変動を検討する. H29年度の結果から,PTP1BのS-sulfhydryl化はその可逆性の担保を介してシグナル伝達を制御している可能性が示唆された.そこで,上記の予定していた研究課題に加え,PTP1BのS-sulfhydryl化の役割についても明らかにしていく.
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