2017 Fiscal Year Research-status Report
飽和脂肪酸とトランス脂肪酸による脂肪毒性の発現の違いや共通性を生み出す分子の解明
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17K15494
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
石橋 賢一 帝京大学, 薬学部, 助教 (00707458)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | トランス脂肪酸 / 飽和脂肪酸 / インスリンシグナル / GLUT4 / リン脂質分子種 |
Outline of Annual Research Achievements |
脂肪酸の過剰摂取により起こる組織や細胞の機能障害は、脂肪毒性と呼ばれ、代謝性疾患などの発症原因の一つと考えられているが、その機序はほとんど明らかになっていない。脂肪毒性を引き起こす脂肪酸には飽和脂肪酸があるが、我々はトランス脂肪酸も脂肪毒性を引き起こすことを明らかにしてきた。そこで本研究では、飽和脂肪酸とトランス脂肪酸による脂肪毒性の発現の違いや共通性生み出す分子を明らかにすることを目的としている。これにより、ほとんど明らかになっていない脂肪毒性の発現機序が明らかになるだけではなく、本研究で見出した分子を指標に脂肪毒性をモニタリングし、適切な脂肪酸の摂取方法を提案できる。
平成29年度では、トランス脂肪酸により脂肪毒性が発現し、インスリン刺激による糖の取り込みが低下した脂肪細胞では、糖の取り込みに関わる分子の活性化が抑制されていることを明らかにした。一方、飽和脂肪酸では、この分子の活性化が抑制されておらず、活性化を抑制する因子が飽和脂肪酸とトランス脂肪酸による脂肪毒性の違いを生み出す分子であると推測された。そこで、リン脂質はこの分子が活性化する際の足場となることから、LC-MSを用いてリン脂質を網羅的に解析した。その結果、結合する脂肪酸が異なる数百種類のリン脂質分子種の中で、トランス脂肪酸によってインスリン応答性が低下した場合でのみ増加するものを複数見出した。この変化は、飽和脂肪酸の場合では見られなかったことから、飽和脂肪酸とトランス脂肪酸による脂肪毒性の違いに結びつく因子である可能性が示唆された。 変化を見出したリン脂質分子種は、脂肪毒性の機序を明らかにするための手掛かりとなるだけではなく、その変化を測定することで脂肪毒性のモニタリングに応用できる可能性があり、研究を次にステップに進める重要な結果を得たと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度~30年度の前半にかけて、飽和脂肪酸とトランス脂肪酸による脂肪毒性の発現の違いや共通性を生み出す分子を明らかにすることを計画した。まず、目的とする分子を絞り込むために、飽和脂肪酸とトランス脂肪酸により脂肪毒性が引き起こされた細胞の中では、何が起こっているのかを詳細に解析した。その結果、トランス脂肪酸によって脂肪毒性が引き起こされた細胞では、インスリンシグナルの中でも特定の分子が抑制されていることを見出した。さらに、得られた結果に基づき解析を進めた結果、その分子の足場となるリン脂質分子種にも変化が引き起こされていることを明らかにした。このように、平成29年度では、脂肪毒性の発現の違いを生み出す分子の候補を見出した。本年度前半には当初の予定通りに、飽和脂肪酸とトランス脂肪酸による脂肪毒性の発現の違いに寄与する分子を明らかにできると予想されるため、おおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度では、脂肪毒性の発現とリン脂質分子種での変化との因果関係を示し、飽和脂肪酸とトランス脂肪酸による脂肪毒性の発現の違いを生み出す分子を同定する。そこで、リン脂質代謝酵素の発現量を変化させる、あるいはリン脂質分子種を細胞外から導入することでリン脂質分子種の含有量を変化させ、それにより脂肪毒性が引き起こされるのかを調べる。まず、どちらの方法が適しているのかを判断するために、酵素の量や活性、リン脂質分子種の代謝物の量の測定を進めている。これらの結果が得られた上で、遺伝子導入による酵素の発現量の調節方法、あるいはリポソームなどを用いたリン脂質分子種の細胞外からの導入方法の検討を進める予定である。 また、当初の計画ではマウスを用いた動物実験を予定していたが、マウスで得られた結果がヒトへ応用できる確証はない。そこで、ヒトへの応用を視野に入れ、平成29年度で見出したリン脂質分子種を利用し、低侵襲的に脂肪毒性をモニタリングする方法の確立を目指す。細胞から血液中へと放出される物質の中には、細胞膜がちぎれて放出される小胞(マイクロパーティクル)が含まれており、マイクロパーティクルにも様々なリン脂質分子種が含まれる結果をすでに得ている。そこで、血液からマイクロパーティクルを分離した後に、含まれるリン脂質分子種を測定し、インスリン応答性に関わる指標との相関性を調べることで、脂肪毒性の新たなモニタリング方法の開発に繋げようと考えている。そのために、平成30年度では、培養細胞を用いた実験で細胞とマイクロパーティクルでのリン脂質分子種の含有量の比較を行いつつ、血液中からマイクロパーティクルを分離する方法を検討する。
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Research Products
(13 results)