2018 Fiscal Year Research-status Report
オーファンG蛋白質共役受容体を介した生体リズム中枢の光環境適応メカニズムの解明
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17K15572
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
村井 伊織 京都大学, 薬学研究科, 研究員 (40792370)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 概日リズム / 光環境 / GPCR / VIPR2 |
Outline of Annual Research Achievements |
地球上の生物は概日時計と呼ばれる体内時計機能を持ち、周囲の明暗環境に生理機能を同調させる。近年、昼夜交代労働や人工照明下での不規則な生活習慣による体内時計の乱れが不眠症や精神疾患、高血圧症などの疾病の発症につながることが指摘されている。しかし、光情報が体内時計の中枢である視交叉上核においてどのように統合され、外部環境に適応するのかはまだごく一部しか分かっていない。そこで本研究では、視交叉上核局在型G蛋白質共役受容体を介した光情報統合機構を調査することによって、体内時計の中枢における光環境適応プロセスを明らかにする。平成30年度は、概日リズム中枢である視交叉上核の時計細胞に発現し、概日リズム発振の中核的な役割を果たすG蛋白質共役受容体であるVipr2受容体の検索を行った。まず脳内での発現分布を検索するため、マウス脳を用いてin situ hybridizationを行った結果、Vipr2 mRNAが強い発現を示すのは、視交叉上核、嗅球内顆粒細胞層、扁桃体中心核、迷走神経背側核とともに、視床の多数の神経核に発現することが注目された。視床での分布をさらに詳細に検索すると、視床外側膝状体、視床後外側腹側核、内側膝状体、視床後外側核、視床背内側核、視床腹内側核に発現していた。この中で特に興味深いのは、光情報を伝達する網膜の神経節細胞が終末する外側膝状体に、Vipr2が視交叉上核と共に強く発現することである。そこで、網膜投射が片側性で対側にのみ投射することを利用して、片側の眼球を摘出した後の外側膝状体におけるVipr2発現量を調べた。その結果、網膜の投射領域である反対側の外側膝状体におけるVipr2発現量は、非投射である同側のものよりも減少した。今後、これらの成果に基づくさらなる研究によって、概日時計の光環境への適応メカニズムの理解につながると期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
概日リズム中枢である視交叉上核の時計細胞に発現し、概日リズム発振の中核的な役割を果たすVipr2受容体の脳内での発現分布を検索し、視床における分布を明らかにした。また、片側の眼球を摘出した後の外側膝状体におけるVipr2発現量を調べたところ、網膜の投射領域である反対側の外側膝状体におけるVipr2発現量は、非投射である同側のものよりも減少した。これらの成果は、生体の光環境への適応メカニズムを理解する上で極めて重要な知見であり、研究は順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度行ったVipr2の視床における発現と網膜入力の影響に関する研究について得られた知見を取りまとめ、論文の執筆・投稿を行う。また、光環境が体内時計の位相を変化させる仕組みに関して、光環境と体内時計機構の接点となりえる時計蛋白質PER2のシスエレメントの変異が、光環境適応に与える影響を検討する。
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Causes of Carryover |
Vipr2 mRNAの脳内での発現分布を検索するためにin situ hybridization実験を行うにあたり、放射性同位体の試薬を購入するための予算を確保したが、他の研究者と共同使用できたため、助成金に繰り越しが生じた。令和元年度分と合わせて、時計蛋白質PER2遺伝子のシスエレメントに関する研究と学会発表の参加費・旅費、および論文の校正・投稿料に充てる予定である。
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