2017 Fiscal Year Research-status Report
微小管モータータンパク質制御因子NudCの神経系における機能解析
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17K15603
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
松本 早紀子 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 助教 (00789654)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 微小管モータータンパク質 / 神経発生 |
Outline of Annual Research Achievements |
神経細胞における微小管モータータンパク質による物質輸送システムは、発生期神経細胞遊走や軸索輸送に重要な役割を果たしており、これが破綻すると、滑脳症などの中枢神経系の形成不全や神経変性疾患を引き起こす。我々は神経細胞で発現するNudCが、キネシンおよび細胞質ダイニンの重要な制御因子であることをこれまでに明らかにしてきた。本研究課題では、NudCが「胎生期の神経細胞遊走と脳形成」、および「成熟神経細胞の機能維持」にどのような機能を果たしているかを、NudCコンディショナルノックアウト(CKO)マウスを用いて明らかにすることを目的とした。 胎生ニューロン特異的なNudC欠損マウスを得るため、作製したNudC CKOマウスとtau プロモーター制御下でcreを過剰発現するマウスを交配し、大脳皮質未熟ニューロンの分化および遊走を組織学的に観察した。その結果、NudCの欠損によって、神経前駆細胞の増殖分裂および分化は影響されないものの、分化した未熟ニューロンの遊走距離が短くなることで大脳皮質全体が薄くなることが免疫組織化学的に明らかになった。未熟ニューロンの遊走にはLis1-細胞質ダイニンの複合体による核輸送制御が重要であることから、胎生ニューロンにおいてもNudCがダイニンの制御因子として機能している可能性が示唆された。 次にNudCの成熟ニューロンにおける役割を明らかにするため、CMVプロモーター制御下でCreを強制発現するレンチウィルスを感染させた後根神経節(DRG)ニューロンの一次培養を用いて軸索輸送を観察した。その結果、NudC欠損DRGニューロンではキネシンとダイニンの移動速度が低下し、この表現型はNudCの強制発現でレスキューされることが分かった。このことから、NudCがキネシン・ダイニンの制御を介して成熟ニューロンの軸索輸送システムを調節している可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題遂行の為には、NudC欠損マウスの確保が必須である。しかしながら、NudCコンベンショナルノックアウトマウスは初期胚で死に至ることがこれまでの研究で分かっている。そこで本研究ではNudCのコンディショナルノックアウトマウスを作製し、胎児期未熟ニューロン特異的なTauプロモーター制御下でCreを発現するマウスと交配することで、胎児期ニューロン特異的NudC欠損マウス(NudC KO)を得ることを計画した。CKOマウスの作製は成功していたため交配を開始したが、NudC KOマウスがperinatalの時期に死亡し、また胎児数もメンデルの法則から期待される比率を大きく下回ることが分かった。元々、NudC CKOマウスは生殖機能障害のためにホモで維持することができないため、NudC KO胎児を作出するためには段階的に極めて効率の悪い交配計画を立てざるを得なくなり、この交配およびNudC KO個体数確保に時間を要したことで研究が少し遅れている。しかしながら、現在は個体数も少しずつ確保し始めており、表現型も明らかになってきているため、今後さらに詳細な形態学的解析を進めていくことができる段階にある。 また、この間に本来は次年度計画であった、成熟ニューロンでのNudCの機能解析に着手し、軸索輸送やニューロンの形態変化などをライブイメージングや組織学的手法を用いて解析を始めており、こちらは概ね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
NudC欠損胎児の個体数確保に時間を要していたが、少しずつ確保でき始めているため、さらなる詳細な大脳皮質の形態学的解析を行なっていく。各種マーカーを用いて、それぞれの細胞の移動度や層構造形成を発生段階を追って免疫組織化学的に解析する。さらに、神経細胞の遊走速度を詳細に検討するため、NudC CKOから調整した小脳顆粒培養細胞にレンチウィルスを用いてCreを強制発現させ、in vitroでの解析にも取り組む。 成熟ニューロンでは、NudC欠損ニューロンのin vivo解析に取りかかる。Synapsin Iプロモーター制御下でニューロン特異的にCreを発現するAAVを生後10日のNudC CKOマウス脳に注入し、ニューロンの変性などを形態学的に解析する。すでに予備実験において、AAVの注入と、Cre遺伝子の発現およびCre発現細胞でのNudCタンパク欠損は確認している。本年度行なった研究により、NudCはキネシンとダイニンを介した軸索輸送の制御に関わることが明らかになっている。このことから、高度に分化し極性を持つニューロンが物質輸送に障害を受けることで、脳内でどのような表現型を示すのか組織学的に解析する。 平成30年度では、以上の課題に取り組み、結果をまとめて科学雑誌に投稿することを計画している。また、神経科学の学会にも積極的に参加し、結果を発表したいと考えている。
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Causes of Carryover |
本年度の課題遂行が動物確保のやむを得ない事情により少し遅れている。そのために、本来は研究の進展に合わせて必要とされる物品を購入予定であったが、それができず本年度の物品費が使用予定額を下回ったため、次年度に繰り越した。現在は問題が解決段階にあるので、次年度では遅れていた課題を遂行するため、次年度予算と繰り越し分を合わせて、主に消耗品費(一般試薬・抗体、ガラス・プラスチック用品の購入、実験動物飼育・維持など)に、一部を旅費と論文投稿費等に使用する計画である。
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[Journal Article] Alpha-synuclein facilitates to form short unconventional microtubules that have a unique function in the axonal transport2017
Author(s)
Toba Shiori, Jin Mingyue, Yamada Masami, Kumamoto Kanako, Matsumoto Sakiko, Yasunaga Takuo, Fukunaga Yuko, Miyazawa Atsuo, Fujita Sakiko, Itoh Kyoko, Fushiki Shinji, Kojima Hiroaki, Wanibuchi Hideki, Arai Yoshiyuki, Nagai Takeharu, Hirotsune Shinji
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Journal Title
SCIENTIFIC REPORTS
Volume: 7巻1号16386
Pages: 1-19
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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