2019 Fiscal Year Research-status Report
アルツハイマー病危険因子PICALMのTau凝集体伝播における役割の解明
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17K15606
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Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
下中 翔太郎 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 博士研究員 (90778747)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | Tau / Tauopathy / Aggregation / Seed |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究においては当初、Alzheimer病(AD)の危険因子とされるPICALMがEndocytosis関連因子であることに着目し、ADの原因タンパクとされるTauの異常凝集体の細胞間伝播とPICALMの関係について、細胞にTauとPICALMを共発現させるモデルを用いて解析していた。昨年度までに、Tau発現細胞に「凝集核(Seed)」として試験管内で凝集させたRecombinant TauおよびAD患者脳から抽出した凝集tauを導入するAD細胞モデルに対して、PICALMを共発現させたところ、発現なしのものと比較して異常凝集Tauの量が低下することを明らかにした。次に、そのメカニズムの解明の為、TauのC末端断片であるtau-CTF24 (243-441、21kDa)の部分的Ala変異体を作成し、細胞内で凝集したtauとPICALMとの相互作用の確認に用いようとしていた。ここで、予想外なことにAla置換によりtauの凝集能そのものが失われる配列(353-368 aa)を偶然発見し、その働きを検証したところ、この353-368配列はtau凝集だけでなく、凝集に用いるseedの種類の識別にも関与している可能性が示唆された。これは各種Tauopathyにおいて、tauが疾患ごとに異なる構造を取って凝集するという、未解明の現象を解く鍵となりうる知見であると判断し、その解析を進めた。結果として、353-368のAla置換体はPSP,CBD由来のtau seedによって起きる凝集は阻害しないものの、AD由来のtau seedによる凝集を選択的に減少させることが明らかになった。加えて、この配列においてはAsn368の側鎖が、凝集減少に重要な役割を果たしていることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請者は患者脳およびRecombinant (Rec)由来のTau凝集体を凝集核 (seed)として細胞に導入するAD病態モデルを用い、欠損によりTau全体としての凝集能を失わせる新規の配列として353-368を見出した。この結果を基に探索する領域を狭めていった結果、368番目のAsparagine (Asn368)を、新たに凝集に関わる部位として同定した。興味深いことに、Asn368の欠損および他のアミノ酸への置換 (Ala, Asp, Gln, Leu)で見られるTau凝集能の減少は、AD患者脳seedを用いた系でのみ見られ、Recおよび同じTauopathyであるPSP患者脳由来seedでは凝集の低下は観察されなかった。この知見は、Asn368がAD特有の凝集体構造の形成に不可欠であり、他のTauopathyとの間に見られる凝集Tauの病理学的・生化学的な差異の発現に寄与している可能性を示唆している。Tauが疾患ごとに異なる構造を取って凝集するという、未解明の現象を解く鍵となりうる知見が得られたと考え、別症例の患者脳を用いた結果の検証も進んでいるため、当区分を選択した。 一方、Endocytosis関連因子PICALMとtau凝集体伝播の関係性の解明という、当初から続けていたテーマに関しては、「Endocytosis阻害剤を加えても、tauの取り込みが停止しない」、「蛍光免疫細胞染色で見ると、蛍光標識tau凝集体はPICALM発現、非発現細胞問わず取り込まれている」といった結果から、「PICALMがEndocytosisを通してTau取り込みを制御している」という仮説の修正を余儀なくされている。
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Strategy for Future Research Activity |
①AD患者脳由来Tau線維の構造モデルに基づいた、Asn-368と相互作用するアミノ酸残基の探索:Cryo-EMを用いて決定された高分解能のAD由来Tau線維の構造モデルによると、Asn-368の対側には318-320部位が位置している。それぞれ318-Val、319-Thr、320-Serを欠損、置換したTauのコンストラクトを作製し、Tau凝集の細胞モデルに発現させることで、Asn-368を欠損、置換させた場合と同じ結果が得られるかを調べる。 ②各種Tau凝集体の構造の違いと、Asn368が凝集に及ぼす影響の確認:Tau凝集の細胞モデルにおいて、作られる凝集体の構造は、使用したSeedのものを鋳型として形成されることが示唆されている。そこで、全長Tauを発現させた細胞にRec、AD、PSP由来のG1 (1世代)Tau凝集体をSeedとして導入した後、不溶性画分を調製し、それぞれのSeedの構造を受け継がせたG2 (2世代)Tau凝集体を得る。その後、得られた3種のG2Tau凝集体をSeedとして、Asp-368を欠損、置換させたTauを発現させた細胞に導入し、G1Tau凝集体をSeedとした時と同様の結果(AD由来のみ凝集低下)を示すかどうかを確認する。 ③Asn368を認識する抗体の作製とTau凝集阻害効果の確認:Asn368を含む短いTau配列の合成ペプチドを免疫したマウスの脾臓を用いてhybridomaを調製する。その後、hybridomaのクローンを選抜することで、抗Tau (Asn368)モノクローナル抗体を得る。この抗体をTau凝集の細胞モデルに投与し、Tau凝集の低下が見られるかを確認する。またRecombinant、AD、PSP由来等、細胞モデルに用いるSeedを変えることで、阻害効果がAD特異的に見られるかどうかにも着目する。
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Causes of Carryover |
Endocytosis関連因子PICALMとtau凝集体伝播の関係性の解明という、当初から続けていたテーマに関しては、「Endocytosis阻害剤を加えても、tauの取り込みが停止しない」、「蛍光免疫細胞染色で見ると、蛍光標識tau凝集体はPICALM発現、非発現細胞問わず取り込まれている」といった結果から、「PICALMがEndocytosisを通してTau取り込みを制御している」という仮説の修正を余儀なくされている。それ故に、この仮説を補強する為に計画していた実験は取りやめとなり、その分の予算が余ってしまった。現在は、派生テーマの「TauのAsn368がAD seed依存性凝集に特異的に働く機構の解明」に用いるseed導入用の試薬の購入などに余った予算を充てる予定である。
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