2017 Fiscal Year Research-status Report
細胞内足場タンパク質AKAP12の血管内皮活性化制御機構の解明と転移治療への応用
Project/Area Number |
17K15622
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
村松 昌 熊本大学, 生命資源研究・支援センター, 助教 (50568946)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 転移抑制遺伝子 / 血行性転移 / 血管内皮細胞 / 接着分子発現機構 / 線維芽細胞 / SASP |
Outline of Annual Research Achievements |
血液中の癌細胞が転移先臓器の血管内皮細胞に接着して血管外へ浸潤することは、転移成立に至要なステップである。転移先となる遠隔臓器では、様々な外因性要因による遺伝子発現の変化(欠損や変異)によって血管の恒常性が破綻し、転移促進性の微小環境が形成されるが、これには細胞内外からのシグナルによる血管内皮細胞の活性化が必須である。本研究の対象分子であるAKAP12は細胞内足場タンパク質であり、その分子内の様々なシグナル伝達分子との結合領域を介して時空間的な細胞内シグナルの調節を行う。AKAP12欠損(Akap12-/-)マウスは、前立腺の過形成や扁平上皮癌の発癌試験に対する高い感受性を示し、癌抑制遺伝子Rbの前立腺特異的欠損マウスとの交配によって前立腺の異形成と鼠径リンパ節転移を生じることから、発癌・転移促進性の微小環境の解析に最適なモデルマウスである。申請者は、Akap12-/-マウスを用いた肺転移モデルの解析によって、肺組織におけるAKAP12の欠損が血管内皮細胞の活性化を誘導して転移を促進するという研究結果を得た。しかし、この研究成果を効果的な転移治療へ結び付けるためには、阻害標的となる特異的な分子や遺伝子の探索および同定が不可欠であり、AKAP12による血管内皮細胞の活性化を介した転移促進性の微小環境形成の細胞内シグナルおよび転写因子による制御機構の解明が期待されている。 これまでの知見や予備実験の結果から、転移促進に寄与する微小環境の形成機構として「血管内皮細胞上の接着分子発現誘導」と「線維芽細胞の細胞老化性分泌による血管内皮細胞の活性化」が、AKAP12によって制御されていることが明らかとなった。本研究では、さらに踏み込んで血管内皮細胞と線維芽細胞それぞれにおけるAKAP12の機能を細胞内シグナルおよび転写レベルで解明し、分子標的治療に展開できる基盤的研究を目的とする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画は、AKAP12による血管内皮細胞活性化の分子機構を血管内皮細胞と線維芽細胞の視点から細胞内シグナル・転写レベルで明らかにし、転移治療標的の探索に繋げる研究である。目的完遂のために、[1]AKAP12による接着分子E-セレクチンの発現を制御する細胞内シグナルの解明、[2]AKAP12による線維芽細胞の細胞老化と血管内皮細胞活性化因子分泌メカニズムの解明、[3]治療標的となり得るシグナル経路・分子の阻害による転移治療効果の検討、を行う計画である。in vitroおよびin vivoによる実験系を用い、血管内皮細胞活性化による転移促進性の微小環境形成を標的とした転移治療へ展開できる基盤研究を目指す計画を立て、現在進行中である。 具体的には[1]のAKAP12による接着分子E-セレクチンの発現を制御する細胞内シグナルの解明において、野生型マウスとAkap12-/-マウスから採取した肺の血管内皮細胞を用いてDNAマイクロアレイおよびリン酸化抗体アレイによる網羅的解析を行った。その結果、Akap12-/-マウス由来の内皮細胞において、細胞外マトリックスのリモデリングに関与する遺伝子群とE-セレクチンを含む接着分子の発現亢進、SrcおよびPKCシグナルの活性化を見出した。また、AKAP12上の機能ドメインを重要性を検討するために変異タンパク質の作製も完了した。更に[2]のAKAP12による線維芽細胞の細胞老化と血管内皮細胞活性化因子分泌メカニズムの解明においては、細胞老化に陥った線維芽細胞から分泌される複数の内皮活性化因子(VEGF, TNFなど)をproteome profilerによって同定した。以上のことから、研究計画は概ね順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究計画が概ね順調に進展していることから、当初の予定通りに計画を遂行する。今後は[1]のAKAP12による接着分子E-セレクチンの発現を制御する細胞内シグナルの解明を更に進展させるために、前年度に作製したAKAP12の変異タンパク質(Src, PKC, PKAそれぞれの結合領域欠損タンパク)を用いて、AKAP12がどのシグナル伝達分子との結合を介して接着分子の発現を制御しているのかを明らかにする。また、[2]のAKAP12による線維芽細胞の細胞老化と血管内皮細胞活性化因子分泌メカニズムの解明においては、馴化培地中に分泌される血管内皮細胞活性化因子の発現を制御するシグナル経路を様々なシグナル伝達分子の阻害剤を用いて同定する。特に血管内皮細胞との共培養系を用いて、がん細胞の接着など血管内皮細胞への影響を中心に解析する。最終年度ということもあり、[3]の治療標的となり得るシグナル経路・分子の阻害による転移治療効果の検討として、in vitro実験および担がんモデルを用いた動物実験計画も遂行する。具体的には、同定したシグナル経路や転写因子に特異的な阻害剤やsiRNAを、Akap12-/-マウス由来およびsiRNAによってAKAP12をノックダウンした血管内皮細胞に処理することで、癌細胞の接着が抑制されるかを、血管内皮細胞上に癌細胞を播種し、接着している癌細胞を定量する細胞接着実験によって検討する。上記の[2]で見出した線維芽細胞からの馴化培地および分泌因子の組換えタンパク質を用いて血管内皮細胞を刺激し、接着因子の発現亢進と癌細胞の接着が促進されることで、転移が増加するかを検討する。
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Causes of Carryover |
本年度において細胞の取得や実験条件の検討に当初の予定より時間を有したことから、それらの試料を用いた実験計画が現在進行中である。このため、申請した物品費およびその他の経費の使用計画よりも、実際の使用額が少なくなっている。研究計画はおおむね順調に進展していることから、計画している実験は行えると判断し、今後の実験のために繰越して使用する計画である。また、申請した研究計画に関連する論文投稿等にもエフォートを割いたことにより、当初の予定よりも多少遅れたと考えられる。しかしながら、その結果として無事に受理され、申請した研究計画に関連する研究結果を開示することができた。
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[Journal Article] A subset of cerebrovascular pericytes originates from mature macrophages in the very early phase of vascular development in CNS.2017
Author(s)
Yamamoto S, Muramatsu M, Azuma E, Ikutani M, Nagai Y, Sagara H, Koo BN, Kita S, O'Donnell E, Osawa T, Takahashi H, Takano KI, Dohmoto M, Sugimori M, Usui I, Watanabe Y, Hatakeyama N, Iwamoto T, Komuro I, Takatsu K, Tobe K, Niida S, Matsuda N, Shibuya M, Sasahara M.
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Journal Title
Scientific Reports
Volume: 7
Pages: -
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
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