2017 Fiscal Year Research-status Report
緑膿菌クオラムセンシング機構の総体的理解に向けたAHLレセプターの機能解析
Project/Area Number |
17K15689
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
老沼 研一 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 助教 (20635619)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 緑膿菌 / クオラムセンシング / RhlR / タンパク質発現 / 可溶性 |
Outline of Annual Research Achievements |
緑膿菌は、自身の病原性をクオラムセンシング(QS)と名付けられた細胞間情報伝達機構により制御している。本菌のQSには、転写制御因子として3種のアシルホモセリンラクトン(AHL)レセプター(LasR, RhlR, QscR)が関与することが明らかとなっているが、RhlRとQscRの解析はLasRに比べて大きく遅れており、その性質や機能には不明な点が多い。本研究では、RhlRの発現・精製と分子機能解析、および、QscRの普遍性と感染症における役割の検証を行うことを主目的としている。 前年度は、特にRhlRの発現方法の検討とDNA結合活性の検出に重点的に取り組んだ。まず、市販のpETシステム(Novagen)による大腸菌発現系を構築し、発現条件の検討を行った。結果、37℃で発現誘導した場合は、RhlRは不溶性の凝集物となるばかりで可溶性画分にはほとんど発現しなかったが、低温で発現誘導することにより可溶性に若干の改善が見られた。一般に、タンパク質の細胞内における安定性は、N末端側のアミノ酸配列に大きく依存することが知られている。そこで、N末端を数残基分切り縮めた形でのタンパク質発現を試みた結果、RhlRを可溶性画分に著量に発現させることに成功した。次に、既知のRhlR認識配列を含むDNA断片をプローブとして、大腸菌で発現させたRhlRのDNA結合活性の検出を試みた。しかし、大腸菌の無細胞抽出液を直接使用したゲルシフトアッセイでは、AHLの添加の有無に関わらず、完全長のRhlRとN末端側を切り縮めたRhlRのいずれにおいても、DNA結合活性は検出されなかった。一方、大腸菌による発現実験と並行して、由来の異なる8株の緑膿菌を対象として、その無細胞抽出液からのRhlR活性の直接の検出を試みたが、いずれの株の抽出液にも目的の活性を検出することはできなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
AHLレセプターを含め、細菌の転写調節タンパク質は、通常、細胞内での発現量が少なく、その調製にあたっては、大腸菌発現系などを用いて高発現させる必要がある。しかしながら、一部のタンパク質は可溶性画分への発現が難しく、実験に難航する場合が多い。RhlRもその例にもれず、可溶性画分への発現は容易ではなかったが、低温で発現誘導することにより完全長のRhlRを一部可溶性画分に発現させることに成功した。更に、N末端を切り縮めたRhlRを著量に発現させることに成功した。これらの成果は、これまで誰も成し得なかったRhlRの精製を実現に大きく近づけたという点において、評価に値すると考える。 一方、RhlRのDNA結合活性は、今回アッセイに用いたいずれの無細胞抽出液試料中にも検出できなかった。その原因として、何らかの因子による活性阻害や、RhlR機能に不可欠な因子の不足・欠如など、様々なものが考えられるが、その解明は、RhlRの生理機能に関する新たな発見に直結する可能性もあり、今後の最重要課題の一つと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
1. RhlRの発現・精製と解析: 前年度に構築した大腸菌発現システムにより、完全長およびN末端短縮型のRhlRを数リットル程度の培養スケールで発現させ、それぞれを大腸菌菌体から別個に精製する。精製標品を用いて、各種AHLのRhlRとの親和性を解析するとともに、AHLの解離/結合によるRhlRの分子量、安定性(凝集・失活の有無やプロテアーゼに対する抵抗性)の変化を調べる。本実験と並行して、RhlRのDNA結合活性を検出するための方法の検討を行う。RhlRが機能を発揮するためには緑膿菌由来の未知の小分子化合物またはタンパク質性因子が必要である可能性が考えられるため、緑膿菌の培養上清や無細胞抽出液の添加の影響を調べる。また、大腸菌細胞に含まれる何らかの物質が活性を阻害している可能性があるため、精製タンパク質を用いた反応条件の検討を行う。これらの試みがうまくいかなかった場合は、DNase Iフットプリント法、蛍光偏光解消法、分子間相互作用解析装置(Biacore)による解析などの、ゲルシフトアッセイ以外の方法による検出を試みる。また、現在使用している認識配列との親和性が低い可能性が考えられるため、他の既知認識配列の使用を試みると同時に、SELEX法により最適の認識配列を探索する。以上の実験を通して、RhlRの性質や機能に関して、新たな知見の獲得を目指す。
2. QscRの普遍性の検討および生理的役割の検証: 当初の計画通り、QscRの普遍性と生理機能に関する研究を進める。具体的には、様々な症例由来の緑膿菌臨床分離株を対象として、qscR遺伝子の保存性を確認し、発現の有無、発現量、機能性に関する検証を行う。qscR遺伝子破壊株を作製し、病原因子の産生性を野生株と比較するとともに、マウスの感染実験を実施し、緑膿菌感染におけるQscRの役割を検証する。
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