2017 Fiscal Year Research-status Report
The study for elucidating the mechanisms of HIV-1's EFdA resistance.
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17K15710
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Research Institution | National Center for Global Health and Medicine |
Principal Investigator |
林 宏典 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, その他部局等, 研究員 (00752916)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | HIV-1 / 薬剤耐性化 / EFdA |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、現在メルク社による臨床試験が実施されている抗HIV剤 (EFdA/MK-8591) に耐性を持つHIV-1変異株 (HIVEFdAR) 由来の逆転写酵素 (RTEFdAR) の結晶構造解析を行い、HIV-1がEFdAに対して耐性を獲得する機序を解明する事を目的とする。 平成29年度は、(1) RTEFdARsの効率的な発現方法と精製方法の確立とDNA非存在下におけるRTEFdARsの結晶化を試みた。更に、(2) NIHのDebananda Das博士等と協力し、ウイルス学的及び分子動力学的手法を用いてHIV-1がEFdA耐性を獲得する機構を検討した。其々の研究実績は下記にて詳細に記載する。 (1) RTEFdARsの発現・精製方法の確立とRTEFdARsの結晶化条件の検討: 2008年に、Arnold等によってRTのC末端を削除した変異体RT52Aを用いる事で、X線回析実験により得られる結晶構造の解像度が向上する事が報告された。平成29年度は大腸菌株BL21 codon plus (DE3) RILを用いて発現した結晶化用RTEFdARs 変異体 (RT52AEFdAR) を高純度 (95%以上) に精製する手法の確立に成功、精製したRT52AEFdARの結晶化条件を検討した。 (2) ウイルス学的及び分子動力学的手法を用いたHIV-1のEFdA耐性獲得機構の解明: 2016年にSarafianos SGのグループによって発表されたHIV-1野生株由来のRT (RTWT) とEFdAの複合体の結晶構造解析を基に耐性化機構の解析を行った。解析の結果、RTの184番目のアミノ酸MetがValに変異する事により、化合物とRTの間で形成されるファンデルワールス力の低下が起こる事が明らかとなった。また、より詳細に解析する事で、EFdAがこれまでの核酸系HIV-1阻害剤よりも薬剤耐性が生じにくい理由の一端を明らかにする事が出来た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は、RTEFdARsのC末端を削除した変異体RT52AEFdARsのクローニングを行い、発現・精製方法を確立する事に成功した。一方で、300種以上の溶媒条件を用いて精製したRT52AEFdARsの結晶化条件を検討したが、現在のところRT52AEFdARsの結晶を得る事は出来ていない。また、RT52AEFdARs結晶化以外に新たな試みとして上述の様に2016年にSarafianos SGのグループによって発表されたHIV-1野生株由来のRT (RTWT) とEFdAの複合体の結晶構造解析を基に分子動力学的手法を用いた薬剤耐性化機構の検討を行い、M184Vの変異がEFdAとRTの結合に及ぼす影響を明らかにした。M184VはRTが核酸系抗HIV剤に対して耐性を獲得する為の重要な変異であり、EFdAに関してもRTにM184Vが導入されることによって10倍以上抗HIV活性が低下することが知られている。 当初の計画では、平成29年度に発現・精製方法の確立とRT52AEFdARsの結晶化条件の決定までを予定していが、実際には結晶化条件の検討までしか到達せず最適な結晶化条件を決定する事が出来なかった。一方で、分子動力学的手法を用いた解析によりRTの184番目のアミノ酸MetがValに変異する事により、EFdAとRTの間で形成されるファンデルワールス力の低下が起こる事を明らかにするなど、HIV-1がEFdAに対して耐性を獲得する機構の一端を明らかにした。上述の様に、各実験項目を見ると進捗が遅れており目標到達点に達していない項目も存在するが、一方で一部の項目ではよそ以上の成果が挙がっている事から研究全体としては概ね順調に進んでいると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
EFdAのHIV-1野生株 (HIVWT) に対するEC50値は0.001 μMであり、EFdAはHIVWTに対して非常に高い阻害効果を示すが、HIVEFdARに対するEC50値は0.15 μMとなり活性が低下する。一方で、その他のNRTIのHIVEFdARに対するEC50値は、Ed4T, AZT, 3TC, FTCで10 μM以上、TDFで8 μMとEFdAに比して非常に高い値を示す。すなわち、EFdAはEFdAに耐性を獲得したHIVEFdARに対してさえ、最も効果的なNRTIであると言える。 平成30年度の研究に関しては、これまで行ってきたRT52AEFdARsの結晶化条件の検討を継続して行い、RT52AEFdARsの結晶構造解析を目指す。結晶が得られた場合、RT52AEFdARsの結晶構造を用いてHIV-1がEFdAに対して耐性を獲得する機構を明らかにする。実際の結晶構造を用いることで分子動力学的手法を用いた解析よりも詳細なデータを得る事が出来るだけでなく、分子動力学的手法では不可能である活性中心近傍以外の変異が薬剤耐性に及ぼす影響を検討する事が出来る。HIV-1のプロテアーゼは活性中心近傍以外の変異も薬剤耐性の獲得に強く関与している事が明らかとなっていることから、RTに関しても、同様の解析結果が得られる可能性がある。また、分子動力学的手法を用いた薬剤耐性化機構の検討に関しても同様に継続して行う。RTの活性中心近傍に存在するアミノ酸の中でもEFdAに特徴的な部分構造であるethynyl基と相互座要しているアミノ酸 (A114, Y115, M184, D185及びF160) に着目して解析を進め、薬剤耐性化機構だけでなく上述の様に、EFdAがHIVEFdARに対してさえ、最も強力な抗HIV活性を発揮できるメカニズムに関しても解析を進める。
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