2018 Fiscal Year Research-status Report
医療安全の向上を目的とした、医師の診断エラーに関する要因解明研究
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17K15745
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
和足 孝之 島根大学, 学術研究院医学・看護学系, 助教 (00792037)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 診断エラー / 認知バイアス / 医療訴訟 / 誤診 / 医療安全 / 臨床推論 / 診断学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、医師の診断エラーの要因分析、特に医師個人の要因を明らかにすることにあり。手法は匿名性の高いインターネット調査を用いて医師個人の診断エラーの実態と環境要因、特に認知バイアスの影響を明らかにすることである。診断エラーの定義は、診断の遅延、診断の誤り、診断の見逃しに分類される。近年、その社会的損失も極めて大きい事が明らかにされつつある。米国での報告では、救急の現場で10例中1例に診断エラーが起きている可能性を指摘した。さらに、およそ1000例中1例に命に関わる致命的診断エラーがある事が予想され、4-12万人/年が診断エラーによる死亡と推定されている。加えて、米国の先行研究でも、診断エラーによる本来不必要な検査や治療のコスト、重症化による入院、後遺症残存や死亡例に伴う損失は年間全国民医療費の約30%を占めている可能性が示唆された。このように、医療安全および医療経済の観点から、診断エラーは極めて重要な位置を占めているにも関わらず、本邦では診断エラーに関連する疫学的研究が乏しい状態であった。そこで本研究は我が国んで初めて、1)Big Web data baseを用いた医療裁判例の横断研究を行った。その研究結果として我が国の判例データバンクから見た診断エラーの解析では、診断エラー関連訴訟と合併症などの非診断エラー関連訴訟との比較で、診断エラーが原因とされる訴訟では1 死亡率が高い、2 訴訟の認容率が高く、金額も高い、3 診断を用いる内科系・プラリマリケア、救急分野に有意に多いことが判明し、これをDiagnostic error in Medicine 11th等国際学会での発表を行った。現在、この研究テーマは我が国を代表する医療訴訟と診断エラーの研究としてBMJ Quality and patient safetyに投稿準備中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
訴訟判例データバンクであるWest Law Japan (社)との無償協力の提携により、医療訴訟における、診断エラーの解析が当初の計画以上に順調に進めることができた。ついで、医師個人の診断エラーの要因解析に着手した。 本研究は我が国で初めて医師個人の診断エラーの要因に着目する研究であり、医療安全の概念の浸透、またTo err is human(医師でも必ず間違える、そのためにそれらをどう防ぐか?)という考え方が普及する以前では困難であったテーマである。その理由として、①本邦では医師自らの負の部分を公にすることは機会が乏しく研究対象として成立してこなかった。また課題②医師の診断エラーはその医師本人の省察無くして状況要因や、認知バイアス等の影響等を調べることができなかったことがあげられた。そこで、困難な問題を乗り越える手法として、①インターネット調査、②質問紙票での調査の双方を用いて、①の妥当性を補足することとした。重視した点として個人情報保護法のもと、徹底した個人情報の保護と匿名性を保つことを心がけた。またアンケート回答による医師個人への損益がないことを担保した。
結果 ①インターネット調査は約3200例のサンプルを集めることができた(会員数8万2千人、我が国の医師数約30万人と仮定、回収率約3.9%、信頼区間95%、Margin error 2%で十分に妥当な調査であると判断した)、②診断エラーに対する質問紙票での調査のでは130例のサンプルを集めることができた(有効回収率 88%) 。当初の経過であった、医師の診断エラーの実態調査、ならびに要因分析に対するデータ収集と解析を順調に終えたために2019年11月ワシントンで開かれる国際学会(Diagnostic error in medicine 12th)で発表予定である。また同時に国際誌に投稿を準備している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の方向性:これまでの先行研究の流れに順じて、本研究で当初考えていた仮説を調べるためのデータは概ね得ることができた。現在、上記3つの研究と国際誌に論文投稿中、投稿準備中の段階である。ついで、今後の研究の方向性としては下記3つをあげる。①現テータを用いた他国との比較研究と共同研究、②医療安全領域の新しい学問として対策を講じるための研究、③新規テーマへの進展である。①,②にに関しては、すでに医療訴訟の判例を用いた診断エラーの解析は、米国の解析と概ね同等の統計的評価が得られている。しかし、診断エラーの医療経済学的な損失とそれを防ぐための対策費用等の研究は未だ我が国では行われていない。研究代表者は米国の診断エラー分野での第一人者であるHardeep Singhと国際学会発表等の研究を通して交友があり、今後我が国が抱える問題点、明らかになっていない点を米国との比較研究を行う方針である。③新規テーマへの進展:これまで我が国では診断エラーを臨床研究のテーマとして研究されることが少なかったことから、開拓すべき領域は多数に登る1剖検データからみる診断エラー調査、2診断エラーに遭遇した患者からの報告と調査、3病院のインシデントレポート、4緊急入院データ・DPCデータ等を用いる、など多数の手法を考案している。これらはいずれも我が国では行われていない領域であるために本研究が終了次第取り掛かる予定である。
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Causes of Carryover |
研究の進行状況が予想以上に順調であったために次年度を繰越して使用した。次年度は最終仕上げとして国際学会での発表と国際誌での発表を予定する。
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Remarks |
本研究はSweden Lund 大学のミドルブ教授と本研究実施者がプライマリケア領域における診断学、並びにそれらを臨床研究として確立させていく重要性を訴えた論文である。
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Research Products
(18 results)