2017 Fiscal Year Research-status Report
侵襲性無莢膜型インフルエンザ菌の全ゲノム解析による感染メカニズムの解明
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17K15769
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
真下 陽一 千葉大学, 大学院医学研究院, 技術職員 (90422253)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | インフルエンザ菌 / 侵襲性感染症 / 無莢膜株 / 全ゲノムシーケンス / 次世代シーケンサー |
Outline of Annual Research Achievements |
まず、侵襲性感染症症例より分離された無莢膜型のインフルエンザ菌(NTHi)株20株について全ゲノム配列の決定を行った。患者の血液または髄液から単離し保存していた、NTHi株を培養してゲノムDNA抽出を行った後、ライブラリ調製を行い、次世代シーケンサーPacBio RS IIを用いてシーケンスデータを取得した。得られたシーケンスデータの信頼度を示すQV値は> 48(精度> 99.999%)であった。ソフトウェアHGAPを用いてde novo assembleを行い、全ゲノム配列を決定した。なお、得られた全ゲノムの配列長は1.79~1.98Mbpであった。続いて、公共データベースNCBIにおいて完全長ゲノム配列が公開されているインフルエンザ菌14株の配列情報をリファレンス配列として、全ゲノム決定したNTHi株20株の全ゲノム配列と比較し、独自のプログラムを用いてvariationの検出を行った。NTHi株20株とリファレンス配列を比較した結果、塩基配列レベルでの一致率が71~91%であった。NTHi株20株間においても一致率は70~92%であり、かなりの多様性が存在していることが明らかとなった。 また、単離後の培養中に菌株がどの程度の新たな変異を獲得するかどうかを評価するために、NTHi株1株を用いて継代を行う前後での全ゲノム配列の比較も行った。継代の前後での配列の一致率は99.9997%であり、わずかに変異が生じているものの大きなゲノム構造の変化は認められなかったことから、短期間の培養中に新たな変異を獲得する確率は低く、解析には影響しないと考えられた。 次に、侵襲性のNTHi株と比較することを目的として、喀痰や上咽頭などから分離された非侵襲性のNTHi株についてもシーケンスデータの取得を行い、20株の全ゲノム配列を決定した。現在、決定した全ゲノム配列を用いて解析を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の計画としては、50例程度の全ゲノム配列データの取得を目指すということにしており、実際には40例の全ゲノム配列データを取得できている。これまでに全ゲノム配列データを精度よく取得することができる実験系を確立できており、また、菌株については単離・保存済みのものが多数あるため、今後、全ゲノム配列データを取得するペースは上がると考えられ、おおむね順調に進展していると言える。侵襲性感染症症例より分離されたNTHi株20株の全ゲノム配列の解析から得られた、かなりの多様性があるという結果は、今後どのように解析を進めていくかを考えるうえで重要な知見となったと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
侵襲性感染症症例より分離されたNTHi株20株の全ゲノム配列にかなりの多様性が見られたことから、目的とする侵襲性に関与する因子の同定にはより多くの全ゲノムシーケンスデータが必要となると考えられる。すでに取得している非侵襲性のNTHi株のデータに加えて、さらに例数を増やしてNTHi株および他の莢膜型の株の全ゲノム配列データの取得を進めていく予定である。当初想定していたよりも多様性が高いことから、菌株の情報(分離時期、分離地域、薬剤耐性など)を十分に吟味したうえで、比較する株を選定していくことが重要であると考えられる。 今後の予定としては、まず、全ゲノムシーケンスを決定する株数を追加し、得られたシーケンスデータから構造変異および遺伝子ごとの変異などの情報を整理する。その上で、紐付けされた菌株の情報および診療情報をもとに比較解析を行い、NTHi株の侵襲性に関与する因子などを同定することを試みる。
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Causes of Carryover |
次世代シーケンサーにより全ゲノム配列を取得する実験を行う時期が次年度にずれ込んだため。次世代シーケンサーで使用する酵素は使用期限が短いため、実験を行う直前に購入するのが適当であると判断した。次年度は主に物品費として次世代シーケンサーで使用する試薬消耗品を購入する。
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