2017 Fiscal Year Research-status Report
Establishment of S100A9 transgenic rats to understand S100 proteins' immunological role
Project/Area Number |
17K15786
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Research Institution | Tenri Health Care University |
Principal Investigator |
岡田 光貴 天理医療大学, 医療学部, 特別研究員 (80747569)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 潰瘍性大腸炎 / クローン病 / 炎症性腸疾患 / S100タンパク質 / トランスジェニックラット |
Outline of Annual Research Achievements |
近年,潰瘍性大腸炎(UC)の患者数は若者を中心に右肩上がりに増加している. UC発症原因の一つは大腸,特に直腸組織におけるマクロファージの異常活性と考えられている. これまで,我々はラットを用いた動物実験により, UCの発症とその悪化に伴いS100A9を優位に発現した活性化マクロファージが炎症を伴う直腸組織に多数浸潤する事実を発見した. この事実は本タンパク質がUCの発症と重症化に深く関わっていることを強く示唆している. そこで,我々はS100A9トランスジェニックラット(Tg-S100A9)を作製し,S100A9の免疫学的機能とUC発症との因果関係を明らかにすることを目的とした. 初年度は,Tg-S100A9を日本SLC(株)と共同開発すること, 及びS100タンパク質によるマクロファージ活性化シグナル伝達経路の解析を予定していた.この内, S100A8を全身に高発現したトランスジェニックラット(Tg-S100A8)を用いた実験により, そのマクロファージ中における活性化経路の一部を解明するに至った. 即ち, Tg-S100A8由来マクロファージにおいては炎症性サイトカインIL-6の産生・分泌が著しく抑制されており, S100A8がIL-6の発現に極めて重要な役割を果たしていることが示唆された.結果としてUC発症時におけるTg-S100A8は野生型ラットと比較して炎症が重症化せず, 病理学的所見においても大腸粘膜の脱落が優位に抑制されていた. 以上の成果は, 海外雑誌Inflammationにおいて発表を行った(Establishment of S100A8 Transgenic Rats to Understand Innate Property of S100A8 and Its Immunological Role.2018,Feb;41(1):59-72).
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初, S100タンパク質によるマクロファージ活性化シグナル伝達経路の解析を行いながら並行してS100A9トランスジェニックラット(Tg-S100A9)の作製に取り掛かる予定であった. 一方で, S100A8トランスジェニックラット(Tg-S100A8)を用いた実験により, そのマクロファージ中における活性化経路を解析する試みが予想以上の成果を挙げ, これら研究を追求する必要が生じた. 本研究は最終的に外国雑誌Inflammationにて採択されたが, Tg-S100A8の樹立は世界初であり, 実験結果にも検証を要する事項が多く, 時間を要することになった. しかし,これらの知見はS100A8が炎症を抑制的に制御する可能性を示しており, 最終的には炎症性疾患に対する新たな治療薬開発に繋がるものと考えている. そのため, 挑戦的な試みであるTg-S100A9の樹立よりも優先度を高く設定し, 研究を遂行した. 当該年度の研究進捗状況を総括すると, マクロファージ活性化シグナル伝達経路の解析は一定の成果を挙げ, 予定よりも早く外国雑誌に採択されたため順調な進捗状況であった. 一方で, Tg-S100A9の樹立に取り掛かることが出来なかったことが, 当初の研究計画よりやや遅れている印象である.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は当初の予定に即して, Tg-S100A9の樹立とS100タンパク質の免疫機能の解析を第一に取り組む. 一方, 現在, 研究代表者(岡田)は所属機関の変更を行っており, それに伴う実験環境の変化があった. 具体的には, 変更後の施設における動物飼育設備の導入が遅れているため, 動物を用いた実験の開始は予定より遅れる見込みである. しかし, Tg-S100A9作製に必要なDNA導入用ベクターの用意や, 共同研究を予定している日本SLC株式会社とのディスカッションは可能であることから, 可能な範囲で研究を前進させる所存である. また, 当初, 本研究が予定通りに進まない場合は, 臨床研究として, UC患者を含む炎症性腸疾患(IBD)患者から得た血清中のS100タンパク質, 及び炎症反応性タンパク質をELISAで測定することを計画していた. これにより, IBD に特異的且つ高感度で検出可能なバイオマーカーとしてのS100A8/A9の意義を考察し, 臨床検査への応用を目指すものである. 今後は, これら研究にも着手し, 動物実験の進行が遅れた場合でも一定の成果が見込めるように推進する. さらに, 臨床研究においては, 得られた結果を他の患者情報(白血球数やCRPなど)と詳細に比較検討し, S100タンパク質のIBDに対する新たなバイオマーカーとしての意義を精査, IBDの簡易重症度診断に有用なELISA測定系の構築を目指す。
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Causes of Carryover |
当該年度においてS100A9トランスジェニックラットの作製に取り掛かる予定であったが, 先に述べた理由により施行出来なかった. 従って, 研究費が余る事態となったが, 研究計画は予定より遅らせて進行するため次年度以降に繰り越す運びとなった.また, 当該年度以上に次年度以降は研究活動, 及び学会等の場での成果報告を精力的に行う予定である為, 必要な費用として請求した.具体的には, 外国雑誌への英語論文1本以上の投稿, 学会での成果発表3回以上を目標としている.
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