2017 Fiscal Year Research-status Report
神経障害性疼痛発症メカニズムに関わるパターン認識受容体の役割の解明
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17K15791
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
石川 亜佐子 佐賀大学, 医学部, 助教 (90404128)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 神経障害性疼痛 / パターン認識受容体 / C型レクチン受容体 / Mincle |
Outline of Annual Research Achievements |
神経障害性疼痛は痛みの診療上、最も治療に難渋する病態の一つであり、有効な治療法の開発が急がれる。しかし、その病態には複雑な機序が関与し、全貌解明には至っていない。近年、その一端として神経―免疫相互作用、特にパターン認識受容体(PRR)が注目されている。代表的PRR、Toll様受容体(TLR)の神経障害性疼痛への関与は知られているが、他のPRRの報告は少ない。PRRの一つ、C型レクチン受容体に属するMacrophage-inducible C-type lectin (Mincle)は死細胞を認識するため、体内の損傷を感知し得ると考えられる。我々は、Mincle KOマウスでは神経障害性疼痛が起らない事、神経切断部位でMincle mRNA発現が増加する事を見出した。Mincleの神経障害性疼痛における役割を明らかにし、新たな治療を見出す事を目的とする。 本年度は以下の検討を行った。我々が用いているMincle KOマウスは全身性のKOマウスであるため、様々な要因を考えなければならない。本研究の場合、痛み行動の評価に影響を与え得る運動能力や情動反応がKOマウスで正常であるかどうかは重要な問題である。そのため、オープンフィールドテストにおける総移動距離で自発的運動を、中央に滞在する時間で情動反応を評価した。また、ロータロッドテストで運動学習を評価した。その結果、Mincle KOマウスとWTマウスに差は認められなかった。また、感覚伝導路に関わる神経系に解剖学的異常がないかを、免疫組織化学的手法を用いて評価した。具体的には後根神経節と脊髄後角における、C線維(痛覚)やA線維(触圧覚)の分布を調べた。その結果Mincle KOマウスとWTマウスに差はなく、明らかな解剖学的異常は観察されなかった。以上の結果からMincle KOマウスではこれらに関して明らかな異常がないことが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度に計画していた内容は、ほぼ行うことが出来た。計画していたホットプレートテストも行ったが、結果が安定せず、結論には至っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
神経障害部位において、Mincleを発現する細胞は好中球、もしくはその他の免疫細胞である可能性が示された。今後は、Mincle KOマウスとWTマウスの神経障害部位において好中球の遊走に差があるのか、フローサイトメトリーを用いて調べる。KOマウスで遊走が減少していた場合は、好中球の神経損傷部位浸潤にMincleが重要と考えられる。また、差がなければ、好中球の遊走自体にはMincleの影響はないが、浸潤好中球に発現するMincleが活性化し、そのシグナルの下流で制御される遺伝子発現が神経障害性疼痛発症に重要であると考えられる。 また、神経障害性疼痛におけるMincle発現の上流シグナルを検討する実験も行う。TLR活性化シグナルによりMincleが誘導されることが知られている。多くのTLRはシグナルを伝えるためにアダプター分子myeloid differentiation factor88(MyD88)を使っている。興味深いことに、MyD88 KOマウスでは神経障害性疼痛が減弱することが報告されている。神経障害性疼痛モデルの障害神経におけるMincle遺伝子発現もTLRシグナル依存的であるのかをMyD88 KOマウスを用いて調べる。 また、Mincle KOマウスにおいて神経損傷後の疼痛関連遺伝子発現に変化が起こっているかどうかについては、これまでにも調べてきている。神経組織(脊髄神経、後根神経節、脊髄後角)において、サイトカイン等についてリアルタイムPCR法を用い、Mincle KOマウスとWTマウスの比較を行ってきた。本事業申請前の予備実験において、Mincle KOマウスの脊髄後角では、IL-1βの発現低下を観察していたが、その後の実験によりIL-1βではなく、他の遺伝子の発現に差があることが明らかとなっている。今後さらにその解析を進める。
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Causes of Carryover |
購入予定であった実験機器が従来品で使用可能であり、購入の必要がなくなったため。次年度の実験器具・機器購入にあてて使用予定。
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