2017 Fiscal Year Research-status Report
エピゲノム情報を用いた拡張型心筋症と拡張相肥大型心筋症の鑑別法に関する研究
Project/Area Number |
17K16034
|
Research Institution | National Cardiovascular Center Research Institute |
Principal Investigator |
錦織 充広 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, その他, 特任研究員 (00633645)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 拡張型心筋症 / 拡張相肥大型心筋症 / エピゲノム解析 / 鑑別診断法 |
Outline of Annual Research Achievements |
拡張型心筋症(DCM)と拡張相肥大型心筋症(dHCM)は、類似した重症心不全の症状を示すが、突然死のリスクなどが異なり、治療方針の決定のためには両者の鑑別診断が不可欠である。本研究では、「DCMとdHCMを生体分子量により明確に区分し、確定診断に利用可能な新規バイオマーカーを確立すること」を目的として、左心室組織のエピゲノム解析(DNA メチル化)より見出したDCM/dHCM鑑別診断用のマーカー候補遺伝子について、個々のメチル化サイト(CpGサイト)のメチル化率を高精度・高感度に定量し、判別法を作成する。 DCM/dHCMの比較で有意差のあった18個のCpGサイトのメチル化率を個々に測定するため、パイロシークエンス法による測定系の構築を実施した。まず、バイサルファイト(BS)処理したDNAを鋳型として標的配列をPCRにより増幅するためのプライマーを各々、設計した。BS変換後のDNAはPCR効率が悪い場合が多いが、プライマー配列や濃度、PCR時のアニーリング温度を各標的CpGサイトについて最適化した結果、8個のCpGサイトで充分な増幅が可能となった。そこで、これらのプライマーを用いたパイロシークエンスを実施し、各CpGサイトのメチル化率の定量性を評価した。さらに、メチル化率が最も高精度に定量可能であった標的CpGサイトについて、DCMおよびdHCM患者の心筋組織より抽出したDNAを用いて測定を実施し、各検体でDNAメチル化率の定量が可能であることを確認した。 次年度では残りの標的CpGサイトについても実試料での測定を行い、得られたDNAメチル化情報の統計解析を実施し、DCM/dHCMの鑑別診断法の開発を進める。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、左心室組織のDNAで標的CpGサイトのメチル化率を高精度・高感度に定量することで、DCMとdHCMを判別する方法を作成することを目的としている。標的となる18個のCpGサイトのうち、8個のCpGサイトでは測定系の構築が概ね終了している。判別はこれらのうち、3-5箇所のCpGサイトの定量値を用いて実施する予定であるが、より精度の高い組み合わせを検討するため、測定系が未構築のCpGサイトについても継続して構築を続ける。 次年度には、上記の鑑別法の作成に加えて、関連遺伝子の生理的意義の解明を推進する。肥大型心筋症の拡張相への移行のメカニズム解明や予測マーカーの同定は臨床的意義が非常に大きい。本研究のマーカー候補遺伝子はdHCM で特異的に変動するパスウェイより見出されたものであるため、これらの機能解析がdHCM の予防法・治療法開発のための研究基盤となると考えられる。 関連遺伝子の機能解析ではラット新生仔の心臓より調製した心筋細胞(MC)および心臓線維芽細胞(CF)の初代培養細胞を用いる。マーカー候補遺伝子の発現細胞の確認やMC、CFに細胞障害性の刺激を与えた場合のマーカー候補遺伝子・タンパク質の発現量を測定し、これらの遺伝子の発現変動を誘発する刺激を探索する。さらに、薬剤等によりマーカー候補遺伝子やその関連パスウェイを活性化・不活性化し、細胞傷害や心機能に対する作用の評価を実施する。本年度は先行してMC、CFの培養を実施し、約40種類のDCM関連遺伝子の発現細胞、発現量の情報を取得しており、機能解析に向けた準備を進めている。 以上の内容を踏まえて、本研究は、おおむね順調に進んでいると判断された。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度は、引き続きDCM/dHCMの判別法についての検証実験を行うとともに、関連遺伝子の生理的意義の解明を推進する。 各標的CpGサイトについて実試料での測定を推進し、CpGサイトのメチル化率データから、比較検定、判別分析などの統計解析を実施し、DCM/dHCMの区分が可能なCpGサイトの組み合わせを選出する。最適な統計解析法を適用し、DCM/dHCMの判定式を作成する。さらに、別の検証用試料からDNAを抽出し、メチル化率の測定結果からDCMとdHCM を予測し、実際の病理診断との比較を行う。さらに、CpG サイトの組み合わせを検討し、より正答率の高い予測方法を見出す。また、同一検体のtotal RNAから合成したcDNAをテンプレートとして、デジタルPCRでマーカー候補遺伝子の発現解析を行う。DCM/dHCMで比較し、可能であれば上記の判別式に利用する。 ラット心筋培養細胞を用いて、マーカー候補遺伝子の発現細胞を確認する。MC、CFのいずれかで充分な発現量が確認された遺伝子については、抗体を用いたキャピラリ電気泳動イムノアッセイ、ELISA、ラジオイムノアッセイなどによるタンパク質の検出法や、多重反応モニタリングよる質量分析計を用いた検出法を検討する。MC、CFに細胞障害性の刺激を与えた場合のマーカー候補遺伝子・タンパク質の発現量を測定し、これらの遺伝子の発現変動を誘発する刺激を探索する。さらに、薬剤等によりマーカー候補遺伝子やその関連パスウェイを活性化・不活性化し、重症心不全で典型的に増加・減少するタンパク質・遺伝子の発現変動を調べ、心不全との関連を評価する。また、プロテオーム解析情報を用いたパスウェイ解析を行い、マーカー候補遺伝子の関連するシグナル伝達経路を明らかにする。
|
Causes of Carryover |
計画当初は、パイロシークエンス用の試薬やビオチン標識したオリゴDNAプライマーの合成に多くの費用を見込んでいたが、条件検討の効率化により、試薬の使用量やプライマーの合成回数が減少したため、当初の見込み金額を下回った。また、本研究費での学会発表費の支出を予定していたが、近隣会場での発表となり使用しなかった。以上の理由で次年度使用額が生じた。 次年度は、マーカー候補遺伝子の機能解析を実施するが、これらマーカーの培養細胞におけるタンパク質発現の検出は、主にELISAやウェスタンブロットなどの抗体を用いた方法で行う。特に市販の抗体は、メーカー毎に特性が異なるため、使用前に予めよく検証しておく必要がある。前年の差額はこれら検出抗体の購入費用に当て、より高感度の測定系を構築することで、研究をより一層進展させる。
|