2017 Fiscal Year Research-status Report
肺発生時の上皮細胞運命制御とプログラムされた細胞老化におけるPtenの役割
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17K16051
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
三浦 綾子 宮崎大学, 医学部, 研究員 (70710903)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | Pten / 肺上皮 / 発生 / 老化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、正常肺発生における上皮Ptenの役割を、「上皮細胞運命制御」と「プログラムされた細胞老化」という本質的な視点から網羅的に解析し、普遍的な臓器形成の分子機構解明に資することを目的とする。申請者らは、肺胞上皮細胞(AEC)でのPten発現が、肺腺癌と肺線維症の発症抑制に必須であることを報告した。最近、申請者はAEC特異的Pten欠損マウスを用い、AECでのPten発現がNotchシグナルを介し上皮細胞の分化方向制御に必須であることを明らかにした。本研究では、SHHGFPCre/Pten△/△マウスとSHHCreERT2/Pten△/△マウスを用い、上皮Ptenが与える肺構成細胞の細胞運命制御と、肺形態形成に重要な「プログラムされた細胞老化」への影響を解析する。本研究の推進は、肺組織修復機構の理解と肺リモデリング疾患の病態解明への貢献も期待される。胎生期にAECでPtenを欠損させたマウスは、肺胞形成不全を呈することが報告されている。しかし、肺発生における上皮Ptenの詳細な役割は明らかにされていない。 申請者らは、作出済みのSP-CrtTA/(tetO)7-Cre/Ptenflox/floxマウス(SOPten△/△マウス)を用い、予備実験としてE18.5の段階で肺上皮細胞を単離し、DNAマイクロアレイ解析を行った。その結果、SOPten△/△マウスの肺上皮では、細気管支前駆細胞、肺胞前駆細胞、神経内分泌細胞、Club細胞、杯細胞、Ⅰ型AECのマーカー遺伝子発現が亢進し、Ⅱ型AECの発現が減少すること、Notchシグナルの発現が亢進し、紡錘体形成に関与するCenpE、Shugoshin、Bub1の発現が減少することを見出した。E18.5マウス肺組織の免疫染色では、DNAマイクロアレイの結果と一致し、SOPten△/△マウス肺で神経内分泌細胞、Club細胞、杯細胞、Ⅰ型AECが増加し、Ⅱ型AECと線毛上皮細胞が減少していた。さらに、SOPten△/△マウスは低酸素血症により出生直後に致死となることを確認している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究実績と予備実験の結果を元に、本研究は、doxycyclineとrtTAの細胞毒性の関与の懸念が不要であるSHHGFPCre/Pten△/△マウスとSHHCreERT2/Pten△/△マウスを用い、肺上皮Ptenの機能を網羅的に解析している。SHHGFPCre/Pten△/△マウスとSHHGFPCre/Ptenwt/wtマウスの出生時生存率を比較したところ、SHHGFPCre/Pten△/△マウスは生存率が有意に減少していた。P0、E18.5、E16.5、E14.5各段階の肺組織を用いたHE染色で上皮Pten欠損が与える気管支分岐、肺胞形成への影響を解析した。さらに、各発生段階における肺上皮細胞と間葉細胞の分化マーカーおよび上皮細胞の分化方向制御因子の免疫染色を行った。SHHGFPCre/Pten△/△マウス肺(E18.5)を用いた、電子顕微鏡解析によりⅡ型AECがみられず、未分化の肺胞前駆細胞、Club細胞、杯細胞の過形成と線毛上皮細胞の減少がみられた。
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Strategy for Future Research Activity |
肺発生に関与する分子とPtenの連関を明らかにし、①上皮細胞と間葉細胞の分化方向制御機構の解析、②発生におけるPtenと細胞老化プログラム機構の解析、③Pten不活性化遺伝子導入肺上皮細胞でのPten-Notchシグナルと細胞老化機構の解析④肺発生時の紡錘体形成機構の解析、⑤Akt阻害剤、Notch阻害剤による肺発生異常に対するレスキュー効果の検討⑥時期特異的肺上皮Pten欠損マウスを用いた上皮Pten欠損が与える多分化前駆細胞/肺胞前駆細胞/細気管支前駆細胞分化能への影響の解析を行い、肺発生におけるPtenの恒常性維持への役割を解明する。平成30年度は、以下を計画している。予備実験で、E18.5のSOPten△/△マウスでは肺胞領域の細胞増殖マーカー陽性細胞が著減し、単離肺上皮でp53、p21の発現が増加していた。SHHGFPCre/Pten△/△マウスとSHHGFPCre/Ptenwt/wtマウス(E18.5)について、細胞増殖を、Ki67、pHH3陽性細胞数ならびにBrdU取り込み能にて比較検討する。アポトーシスはTUNEL assayとcleaved caspase-3の免疫染色で評価する。ヒト不死化肺上皮細胞株(BEAS-2B)に、レンチウイルスにて野生型PTEN遺伝子、PTEN shRNA、scramble shRNAを導入する。各遺伝子導入細胞株のNotchシグナル関連分子および腫瘍抑制因子・サイクリン依存性キナーゼ阻害因子発現動態についてwestern blottingと定量PCRにて測定する。細胞老化についてSA-β-GAL染色を行う。さらに、PTEN shRNA導入細胞へp53 shRNAまたはp21 shRNAを導入し、p53またはp21のノックダウンによる細胞老化のキャンセル効果をSA-β-GAL染色により評価する。
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Causes of Carryover |
平成30年度は国際雑誌への論文投稿を見込んでいるため、論文投稿費と別刷りに使用する予定である。
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Research Products
(8 results)