2020 Fiscal Year Research-status Report
免疫系と神経系のクロストークに着目した気管支喘息重篤化機構の解明と制御法開発
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17K16064
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
芦野 滋 京都大学, オープンイノベーション機構, 特定講師 (10507221)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 気管支喘息 / ウイルス感染 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度では、昨年度に続いて、ウィルス感染状態の重症喘息モデルマウスを用いて研究を進めた。ウイルス核酸成分には、single stranded RNA (ssRNA) および double stranded RNA (dsRNA) があることが知られており、それぞれの人工試薬poly I:C (dsRNAを模倣する) および R848 (dsRNAを模倣する) を投与したところ、poly I:Cで喘息病態が増悪することを明らかにしてきた。すなわち、ウイルス成分のssRNAではなくdsRNAが喘息重症化を誘導していることが示唆された。 また、ウイルス感染状態のマウスの肺組織で樹状細胞やマクロファージの細胞表面上に神経ペプチド受容体NK2R が発現したことが明らかになっており、NK2R阻害剤を投与したところ喘息重症化の軽減が認められた。ただし、この阻害剤を通常の喘息マウスに投与した場合、気道過敏性を亢進させて症状を悪化させたために、投与量については厳密に検討する必要があると考えられた。Poly I:Cによって引き起こされる重症喘息の症状がNK2R阻害剤によって改善した際の、肺内サイトカインレベル(IL-4, 5, 13, IFN-g, IL-17など)を解析したところ、NK2R投与群と非投与群で有意な差は得られなかった。このことからNK2R阻害剤による気道過敏性亢進は、これらサイトカイン刺激経路の下流に存在する生理反応である可能性が推察された。一方で、TSLP, IL-25, IL-33はヒト重症喘息で有意に高産生されるサイトカインであり、これらのサイトカイン産生レベルとNK2R発現性の関連性も前年度に引き続き解析している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ウイルス核酸成分dsRNAが、樹状細胞あるいはマクロファージの細胞表面上に神経ペプチド受容体NK2Rを発現させ、喘息重症化を促しており、NK2R阻害剤でその症状(気道過敏性)が軽減されることが確認された。また、肺におけるサイトカインストーム(IL-4, 5, 13, IFN-g, IL-17)は、そのNK2R阻害剤で減弱されなかったため、今後、TSLP、IL-25、IL-33といった重症喘息患者でも認められるサイトカイン群と関連するかを解析していく。 また、このdsRNA投与によって誘導される重症喘息が、ステロイド抵抗性を示すかどうかを別途検討しており、ステロイド代謝酵素が、通常の喘息とウイルス感染状態にある喘息の肺組織でmRNAレベルで発現パターンが異なっていることが示唆され、気道過敏性に加えてステロイド代謝酵素による病態変化について解析を進めている。 以上のように研究進捗はおおむね順調と考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
ウイルス成分 (dsRNA) を模倣した人工試薬poly I:C を用いた重症喘息モデルにおいて、NK2R阻害剤が有用である可能性を見出した。TSLP, IL-25, IL-33などのヒト重症喘息に関わるサイトカイン依存的なNK2R発現制御を解析していくとともに、難治性に関わるステロイド代謝酵素の発現制御メカニズムについても精査していく。また、本研究課題とは別に、実際のウイルス感染誘導性の喘息重症化モデルの開発にも注力しており、ssRNAやdsRNA依存性を遺伝子改変マウスを用いて、神経ペプチド受容体の発現が病態増悪に与える影響を検討する準備も進めている。
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Causes of Carryover |
令和2年度は、昨年度と同様に中和抗体や阻害剤に加えて、タンパク・遺伝子解析試薬のストックが十分にあったために、当初よりも低額で終えることができた。加えて、以前にも増して学内の共同研究機器使用の体制が整ったため、外部へ委託する費用の軽減も関係した。さらに、以前から続けている実験試薬の保存方法の改善、再利用などのコスト削減試行も関係している。 令和3年度は大学を異動したために、新たにin vivo モデルの実験系の立ち上げ、遺伝子改変マウスの導入費用や維持費、ウイルス関連にかかる試薬代が新たに生じると予想され増額される見込みであるため、それらの研究経費に充当する予定である。
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