2017 Fiscal Year Research-status Report
β1インテグリン/RhoK介在性・新規血管内皮透過性制御機構の解明
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17K16129
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
伊澤 良兼 慶應義塾大学, 医学部, 助教 (90468471)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 脳血管障害 / 血管透過性 / 内皮透過性 / 血液脳関門 / β1インテグリン / タイトジャンクション |
Outline of Annual Research Achievements |
脳梗塞、脳出血、脳血管性認知症の発症・病状悪化に、脳血管透過性の亢進が関与することが示唆されているが、脳血管透過性亢進メカニズムは、十分に解明されていない。我々はこれまで、血管透過性亢進機序の解明に取り組み、低酸素状態で血管内皮細胞のβ1インテグリン発現が減少すること、マイクログリアなどから分泌されたマトリックスメタロプロテアーゼ(MMPs)やL-カテプシンが、脳血管基底膜の主要マトリックスであるコラーゲンIVを分解すること、β1インテグリンと基底膜マトリックスの結合が消失することで、血管内皮透過性亢進が誘導されるという、全く新たな機序を報告してきた。しかしながら、β1インテグリンと細胞外マトリックスの解離から、内皮透過性亢進の主因たるタイトジャンクション減少に至る機序は未解明であった。 当研究では、この機序解明に取り組み、これまでの成果として、β1インテグリン阻害による血液脳関門障害の機序として、①β1インテグリンを介したout-in signalが阻害されると、内皮細胞内でmyosin light chainキナーゼ、Rhoキナーゼが活性化すること、②Myosin light chainのリン酸化が亢進することにより、内皮細胞内のアクチンフィラメントの構造変化が起こること、③これにより内皮細胞間のタイトジャンクションが減少し、内皮間透過性が亢進すること、④当実験系における血管内皮透過性亢進には、MMP2/9活性化は直接関与しないこと、などを明らかにした。 我々が提唱した、基底膜マトリックス-β1インテグリン結合の解離に起因する内皮細胞内シグナル変化がより詳細に解明されたことにより、血管透過性亢進が関与する、脳血管障害、多発性硬化症、転移性腫瘍など多岐にわたる神経疾患の新たな治療法開発への糸口が明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実験計画1)「脳血管障害モデルマウスにおけるマイクログリア活性化の評価」については予定通り、虚血環境下におけるマイクログリアの経時的観察を行った。麻酔下でマウス脳表のマイクログリアが虚血後に形態変化することは確認されたが、虚血が強い場合マイクログリアが死滅するなど適切な観察条件の設定が困難であった。また、マイクログリア蛍光標識遺伝子改変マウスの繁殖が進まない問題が生じ、実験が遅滞する原因となった。in vitro実験でマイクログリアの活性化のみに着目する必要性に否定的なデータが得られたため、実験計画2)「脳血管障害モデルマウスにおける虚血後脳血管透過性の経時的変化の評価」を優先的に行った。実験計画2)は極めて順調に実験が進行し、虚血条件、観察条件などを確定し、2光子顕微鏡にて生存下のマウス脳表微小血管における、虚血前後の血管透過性の経時変化を捉えることに成功した。一方、虚血直後については、血管内皮細胞を蛍光標識したTIE2GFP遺伝子改変マウスを用いることにより、より優れた観察が可能になると考えられた。そのため、TIE2GFP遺伝子改変マウスを使用する方針とし、海外からの入手手続きを進めた。2018年4月入手が終了し、現在は同マウスの繁殖を進めている。C57BL/6Jマウスを用いた実験で既に確立した観察手法・虚血暴露条件などをTIE2GFPマウスに応用し、虚血直後における血管透過性評価を行う予定である。C57BL/6Jマウスでは、血管透過性の経時的変化に関する先行データをすでに得られていることから、「実験計画3)RhoK阻害剤Y-27632によるin vivo血管透過性への影響の評価」についてもTIE2GFPマウスで行う。 以上のように一部実験計画の方針の修正はあったものの、血管内皮透過性機序の解明という当初の目標に向け十分な進捗が見られている状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の通り、この1年間で蓄積した、C57BL/6Jマウスを用いたin vitro, in vivoでの実験データ、実験手法・ノウハウをもとに、TIE2GFPマウスを用いて虚血後の血管透過性の経時的変化に関する評価を進める。なお、これまでの実験結果から、当初の予測と異なるデータが得られており、実臨床における脳梗塞の出血性変化、脳出血のメカニズムを説明しうるデータとして着目している。 血管内皮透過性の調節機序の解明は、脳血管障害だけでなく、多発性硬化症、悪性腫瘍の脳転移、肺高血圧症など様々な疾患の治療ターゲットの選定に役立つ可能性がある。当研究成果を動物実験レベルで終えるのではなく、臨床における新たな治療手法の確立を最終目標として研究を進める。 このように、本研究を今以上に促進させるため、当研究室での血管障害に関する研究体制を2018年度から改編し、研究従事者のエフォートの割合を変更し当研究に注力する。
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Causes of Carryover |
研究成果を海外科学誌(査読あり)に論文発表したほか、国際学会を含む複数の学術会議にて研究成果を報告したことから、研究目的は十分に達成した。一方、研究遂行段階において、実験計画1)「脳血管障害モデルマウスにおけるマイクログリア活性化の評価」では、使用予定であったマイクログリア蛍光標識遺伝子改変マウスの繁殖が予想外に進まない問題が生じたため実験が遅滞した。これに伴い動物飼育費・実験物品の購入額が減少した。さらに、実験の適切な修正・継続により、優先的に行った実験計画2)「脳血管障害モデルマウスにおける虚血後脳血管透過性の経時的変化の評価」の遂行が極めて順調に進行したため、当初予定したよりも、使用実験動物数が減少し、実験消耗品の購入が抑制された。その後「実験計画2」の結果に基づき、血管内皮細胞蛍光標識(TIE2GFP)遺伝子改変マウスの使用により、より優れたデータが得られるものと判断されたことから、節約された予算の一部を同マウスの入手に充てた。同マウスの海外からの入手に支出と時間を要したことから、一時的に実験進行・支出を抑制した。そのため、2017年・年度末の時点で残額が生じたが、2018年4月時点ではマウス入手が完了し、実質的な次年度使用額(残額)は大幅に減少した。今後は実験計画1)2)の知見をもとに実験計画3)へと展開する予定であり、当初申請した予算が必要となる。
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Research Products
(6 results)