2017 Fiscal Year Research-status Report
SHBGの生理的意義解明による抗肥満および糖・脂質代謝改善戦略の創成
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17K16158
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山崎 広貴 東京大学, 医科学研究所, 助教 (60784337)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 脂質代謝 / 慢性炎症 |
Outline of Annual Research Achievements |
sex hormone-binding globulin (SHBG) の血中濃度は、肥満や糖尿病リスクと逆相関する。我々は、SHBGが肥満や糖尿病の基礎的病態の一つである「脂肪細胞の肥大」や「慢性炎症」に抑制的に作用する可能性を見出していることから、その作用の詳細を解明し、エネルギー代謝異常の新たな予防戦略・治療創出の基盤的知見を得ることを目指している。 1) 脂肪細胞に対するSHBG作用の詳細解明のため、マウス由来の脂肪前駆細胞である3T3-L1を成熟細胞脂肪へ分化させたのちに精製SHBG蛋白を添加し、遺伝子発現変化を調べた。CEBPa、PPARg、SREBP1、FASの発現低下、ATGL、UCP2の発現増加など、脂質代謝関連遺伝子の発現変化を認めた。さらに、成熟脂肪細胞に対するLPS刺激誘導性の炎症性サイトカイン発現上昇について、SHBG蛋白は抗炎症的に作用した。SHBG蛋白は脂肪細胞に対して遺伝子発現レベルで様々な変化をもたらしながら脂肪量減少や炎症低減に寄与する可能性が示唆された。 2) in vivoでのSHBG作用の検討として、SHBG蛋白を発現するアデノウイルスを使用し、通常食あるいは高脂肪食負荷マウスにおいてSHBGを過剰発現させ、臓器重量や各種の代謝パラメーターを調べた。白色脂肪組織重量、炎症マーカー、血糖値、血中の脂質に明らかな変化は認められなかった。脂肪細胞の大きさについて、組織学的評価や、コラゲナーゼ処理およびフローサイトメトリーをおこなったが、SHBG過剰発現による明らかな影響は認めなかった。一方で、卵巣摘除マウスにおいては、SHBGの過剰発現により、絶食時の脂肪組織量の減少、ならびに脂肪組織における抗炎症効果が見出された。生体においては、SHBGが性ホルモン環境と密接に関わりながら作用を発揮する可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
SHBG蛋白の脂肪細胞への直接作用の解析を進め、脂質代謝に関わる遺伝子発現変化を見出した。脂肪細胞の脂肪量減少を支持する変化であり、SHBGによる抗肥満効果の背景機序である可能性がある。抗炎症効果も並行して見られており、SHBGの血中濃度の上昇はエネルギー代謝異常の発症・進展に抑制的に働く可能性があると考えられた。一方で、in vitroでのSHBG作用の検証から、ホルモン環境と関連しながら作用が発揮されることが示唆され、SHBG蛋白の生体システムにおける意義を解明する足がかりを得た。論文は現在投稿中である。以上から、概ね順調に進展しているとした。
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Strategy for Future Research Activity |
以下の計画を実施し、生体におけるSHBGの作用ならびに性ホルモンとの関連について解析を進める。 1) in vitroでの検証として、SHBGと性ホルモン刺激を組み合わせて、脂肪細胞における脂肪量減少ならびに抗炎症効果の機序解明を目指す。すでに見出している遺伝子発現変化に加え、蛋白発現変化やリン酸化シグナルの変化などを解析する。オミクス解析へ展開し、SHBG作用の中心的シグナルの同定を目指す。 2) in vivoでの検証として、shamマウスおよび卵巣摘除マウスにおける表現形の比較を中心に、SHBGが性ホルモンの存在によってどのような作用修飾を受けるかについて、各種臓器における変化や血中代謝パラメーターについて解析を進める。 3) SHBGは糖尿病リスク軽減に寄与する可能性が臨床的に示唆されていることもふまえ、SHBGによる脂肪量減少や抗炎症効果が、耐糖能に与える影響について解析する。in vitroにおいてSHBG蛋白存在下でのインスリンシグナルの変化、またin vivoでSHBG過剰発現系(SHBG蛋白の発現アデノウイルスやトランスジェニックマウスの利用)にてブドウ糖負荷試験やインスリン負荷試験、各臓器におけるインスリンシグナルなどを評価する。
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Causes of Carryover |
本年度は、SHBGの生体での作用について性ホルモンとの関連性の観点から興味深い知見を得た。そのため、本年度に予定していたオミクス解析に優先して、SHBGと性ホルモンとの関連について解析を進めることに注力したため、使用額が見込みよりも少なくなった。今後、当該予算については次年度分と合わせて有効かつ柔軟に運用し、SHBGの生体における意義を解明するために必要な検証を進めていきたい。shamマウスおよび卵巣摘除マウスにおける表現形の比較を含め、SHBGが性ホルモンの存在によって受ける作用修飾について、各種臓器における変化や血中代謝パラメーターなどの解析を進める予定である。
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Research Products
(1 results)