2017 Fiscal Year Research-status Report
血管発生分化過程における内分泌因子の働きのヒトES/iPS細胞を用いた解析
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17K16163
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
河面 恭子 京都大学, 医学研究科, 客員研究員 (40784153)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 血管 / 再生医療 / 内分泌 / 心血管ホルモン / ヒトES/iPS細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
当年度は本研究計画に従い、ヒトES/iPS細胞からの血管細胞分化誘導技術の改良および血管細胞分化における心血管ホルモンおよびその受容体発現の意義についての解析を進めた。 Flk1(+)TRA1-60(-)分画から血管壁細胞を分化誘導する系に関して、より成熟した壁細胞を誘導するため、各種液性因子の添加による効果検討を継続した。誘導効果判定は後期血管平滑筋マーカーであるSM22を用いて行った結果、TGFβを誘導初期に使用することで、より成熟した壁細胞を選択的に誘導する系を確立できた。 次に、改良した血管細胞分化誘導の系において、各分化誘導過程での心血管ホルモンおよびその受容体の発現につき再検討した結果、BNPは分化誘導過程で得られるFlk1(+)TRA1-60(-)細胞分画では強発現しており、さらにこれらの細胞が培養液中にBNPを産生することが同様に確認できたが、壁細胞に分化するに従い、BNP発現量は減少した。 また、BNPが主に作用する受容体であるGC-Aは壁細胞ではなく血管内皮細胞に強く発現していた。 未熟な中胚葉の細胞と考えられるFlk1(+)TRA1-60(-)分画は、形態的にも多様な細胞集団であるため、これらがどのような性質をもつ細胞であるかを確認した。血管、心筋、軟骨などへの分化が可能であるかを既報の誘導法に従い実施したところ、血管内皮細胞へのみVEGF高濃度添加で一部分化が確認できたが、他中胚葉への分化は確認できなかった。 Flk1(+)TRA1-60(-)細胞におけるBNP発現の生理的意義の解明のために、現在siRNAを用いてBNP発現を低下させる実験系を確立中である。同時に、我々の血管細胞分化誘導系においてBNPを添加することで分化誘導に影響を与え得るかを検討したところ、壁細胞の増殖能に関与している可能性も示唆される結果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
生体の血管は、おもに内面を覆う血管内皮細胞(EC)とその外側を裏打ちする壁細胞(MC)からなるが、申請者らの研究室では、本研究申請時までに既にヒトES/iPS細胞からEC、MCのいずれも分化誘導することに成功している。 ECの分化誘導に関しては、これまでに、GSK3β阻害剤やRock inhibitorの導入による誘導技術の改良によりどのES/iPS細胞株からも安定して分化誘導できる高い技術レベルを確立できている。MCは細小血管ではpericyte、中等度以上の血管では血管平滑筋(SMC)の形態をとるが、MCの分化誘導に関して、pericyteとSMCとの両者を分けて考え、双方を分化誘導できる技術の開発は不十分であった。今回、MC分化に影響を与えると報告されている各液性因子や細胞外基質について検討し技術改良を加えることで、MCの分化誘導法を整備することが出来た。 分化誘導法を整備した上で、各種心血管ホルモンが、ヒトにおける血管分化誘導に何らかの影響を与え得るかどうかについて、これまでに得られているデータを元に解析中である。 特にヒトES/iPS細胞からの血管細胞誘導過程で得られるFlk1(+)細胞でANP、CNPなどの発現は観察されずBNPのみが強発現し、さらにFlk1(+)細胞が培養液中にBNPを産生することは興味深い現象だと考えている。その生理的意義、作用機序の解明のために、血管細胞分化誘導過程でのBNP添加による影響の検討、Flk1(+)細胞への遺伝子導入(siRNA)によるBNP発現低下状態での血管分化の評価を実施中であり、研究計画に沿って進行していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
我々はこれまでにヒトES/iPS細胞からの血管構成細胞(血管内皮細胞、壁細胞)への分化誘導システムの構築において着実な成果を上げている。また、心血管ホルモンの血管障害や血管再生に与える影響についても検討してきた。本研究の特色は、ヒトES/iPS細胞からの血管構成細胞分化誘導技術と心血管ホルモンに関する研究の知見から、実験動物ではなく、ヒトの血管の発生分化過程における内分泌因子(特に心血管ホルモン)の働きの解析を行うという点である。 ヒトES/iPS細胞を用いて同定した血管構成細胞分化誘導におけるkey factorを血管新生・再生を促進する因子として臨床応用し、動脈硬化の進展・心血管イベント発症を抑制するべく血管保護・再生・修復を促す非侵襲で根治的な新規治療法の開発を目指す。 本研究では主にBNPに着眼し、BNPのヒト血管の発生分化へ与える影響を追究することで、血管障害の予防・治療に関して新たな知見を広めていく。 我々の分化誘導系を用いた解析において、BNPが主に作用する受容体であるGC-Aは壁細胞ではなく血管内皮細胞に強く発現していたため、血管分化におけるBNPの意義を検討するために、Flk1(+)細胞または壁細胞と血管内皮細胞の共培養実験を行う予定である。さらに、上述したFlk1(+)細胞へのsiRNA導入によるBNP発現低下モデル実験を進めるとともに、未分化ヒトES/iPS細胞自体への遺伝子導入アプローチも行い、同じくBNP発現低下モデルおよび亢進モデルを作成することで、血管誘導初期段階におけるBNPの意義についても検討したいと考えている。
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Research Products
(2 results)
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[Journal Article] Evaluation of quantitative parameters for distinguishing pheochromocytoma from other adrenal tumors.2018
Author(s)
Ohno Y, Sone M, Taura D, Yamasaki T, Kojima K, Honda-Kohmo K, Fukuda Y, Matsuo K, Fujii T, Yasoda A, Ogawa O, Inagaki N.
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Journal Title
Hypertension Research
Volume: 41
Pages: 165-175
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Significance of dopamine D1 receptor signalling for steroidogenic differentiation of human induced pluripotent stem cells.2017
Author(s)
Matsuo K, Sone M, Honda-Kohmo K, Toyohara T, Sonoyama T, Taura D, Kojima K, Fukuda Y, Ohno Y, Inoue M, Ohta A, Osafune K, Nakao K, Inagaki N.
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Journal Title
Scientific Reports
Volume: 7
Pages: 15120
DOI
Peer Reviewed / Open Access