2018 Fiscal Year Research-status Report
ワンヘルスアプローチで目指す薬剤耐性菌出現の原因究明と蔓延予防策の構築
Project/Area Number |
17K16228
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Research Institution | Nara Medical University |
Principal Investigator |
中野 章代 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (10707441)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ワンヘルス / 薬剤耐性菌 / CTX-M β-ラクタマーゼ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ワンヘルスアプローチ概念に基づき、ヒト・家畜・食品・環境における薬剤耐性菌の分布状況とその関連性を明らかにし、薬剤耐性菌の制御と蔓延防止策を構築することを目的としている。ヒト・家畜を中心に解析を行った一昨年度に続き、昨年度は食品、環境を中心に耐性菌を収集し、その遺伝学的特徴について解析を行った。さらに、今後問題となりうる薬剤耐性菌を分離培養し、耐性機構の解明を引き続き行った。 一昨年に収集し未解析であったヒト(健常人、患者)・家畜(牛、豚)検体から分離された耐性菌ならびに新たに食品(野菜)・環境(野生動物として鹿、河川水)から分離された第3世代セフェム系薬耐性菌の遺伝学的背景について解析を行った。河川水を除く検体から耐性遺伝子としてCTX-M β-ラクタマーゼを産生するグラム陰性菌が分離された。ヒトにおいて、健常人と患者で検出されるCTX-M型産生大腸菌のゲノム型やプラスミド型などの遺伝学的背景に大きな違いは確認されなかった。一方で、ヒト、家畜、野菜、野生動物である鹿において検出されたCTX-M型遺伝子に一部共通性が見られたが、ゲノム型やプラスミド型などの特徴は大きく異なっており、それぞれの関連性を認めることはできなかった。 ヒト患者検体から分離された耐性菌の耐性機構の解明においては、菌種の同定が難しい第3世代セフェム系薬耐性菌の性状解析を行った。次世代シークエンスの結果、日本での報告例のない珍しいクラスA型β-ラクタマーゼであるSed-1を産生するCitrobacter sedlakiiであることがわかった。さらにこの菌株は染色体上にSed-1と、隣接して調節遺伝子であるSedRをコードしていることがわかり、その酵素産生性についての誘導実験等により性状解析を行った。既知の手法で解析を行ったが誘導能を確認できなかったため、他の視点からの解析が必要であることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実験計画に従い、一昨年度中心に収集したヒト(健常人、患者)と家畜(牛、豚)の未解析検体と、新たに昨年度中心に収集した食品(野菜)・環境(野生動物として鹿、河川水)について、第3世代セフェム系薬耐性菌を分離同定し、その分布状況とそれぞれの関連性を明らかにした。さらに、患者検体から自動機器等で菌種同定が難しいCitrobacter sedlakiiを分離同定した。この菌種は染色体上にクラスA型β-ラクタマーゼであるSed-1をコードしており、世界でも報告例が少なく、これまで本邦での報告もなかった菌種であったため、緊急性のあるものとして国内の学会にて解析結果を報告した。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度は食品として野菜、環境として野生動物である鹿とその近隣の河川水を中心に検体収集を行ったが、野菜と河川水からの薬剤耐性菌の検出数が少なかった。今年度は食品として引き続き有機野菜と肉を、また環境として引き続き河川水を重点的に検体収集し、薬剤耐性菌の遺伝学的背景について解析を行う予定である。ヒト・家畜・食品・環境における薬剤耐性菌分布状況の全体象と関連性がさらに明らかにできると思われる。一昨年に分離した多剤耐性大腸菌について、並びに昨年度分離同定された菌種については、酵素活性等に関する追加実験を行う予定である。
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Causes of Carryover |
昨年度は食品・環境について中心に検体収集を行ったが、目的とする第3世代セフェム系薬耐性菌の検出数が少なかった。今年度も引き続き食品・環境における検体収集と解析を行う予定にしたため、その解析費用が必要である。また、一昨年度は近年中国で散見されている多剤耐性大腸菌を本邦で初めて分離し、昨年度は世界でも報告例が少ない珍しい菌種を分離した。引き続きこれらの株の性状解析を行う予定であり、さらにこれまで分離した株の詳細解析を行い、今後問題となりうる耐性菌がないか検討し新たに珍しい菌が検出されれば次世代シークエンスにより解析を行う予定であるため、次年度使用が生じた。
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