Project/Area Number |
17K16230
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
鴨志田 剛 帝京大学, 医学部, 助教 (40707410)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 好中球 / アシネトバクター / LPS / コリスチン / リゾチーム |
Outline of Annual Research Achievements |
Acinetobacter baumannii は, 薬剤耐性を獲得し易く, 多剤に耐性を獲得した本菌は, スーパー耐性菌として近年世界中の医療機関で問題になっている. A. baumannii は, 通常は無害であるが, 易感染宿主において高頻度に肺炎や敗血症を引き起こすため, 宿主免疫細胞との相互作用が重要であると考えられる. 申請者はこれまで, 細菌感染防御に重要な好中球と A. baumannii の相互作用を解析し, 本菌の多様な宿主免疫回避機構を明らかにしてきた. H30年度は, 細菌表層の分子に着目し研究を行った. コリスチンは, グラム陰性菌の重篤感染症の最後の砦として使用されている薬剤である. しかし, A. baumannii は, 高頻度でコリスチンに耐性を示すことも報告されている. そこで, A. baumannii の コリスチン耐性株を樹立し, その性状を解析し, 好中球によるコリスチン耐性株の殺菌メカニズムの詳細を解析した. その結果, lipopolysaccharide (LPS) の生合成に関与する lpx A, C, D のいずれかに変異が認められ, LPS が完全欠損した菌株が樹立された. さらに, 親株は好中球にほとんど殺菌されないのに対して, コリスチン耐性株は好中球によって顕著に殺菌された. 好中球によるコリスチン耐性株の殺菌メカニズムを解析した結果, 好中球が産生するリゾチームがその一部を担っていることが明らかとなった. 本研究から, A. baumannii は, LPS を完全欠損することでコリスチンに対し耐性を獲得するが, この耐性菌株は, 好中球の産生するリゾチームにより容易に殺菌されるため, 医療現場での大規模な蔓延には至っていないことが示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H30年度は, 細菌表層の分子に着目し研究を行った. Acinetobacter baumannii は, 薬剤に耐性を獲得し易く, 院内感染の原因菌として, 世界中の医療機関で問題になっている. また, 多剤に耐性を獲得し易く, multiple-drug resistant A. baumannii (MDRA) は, 有効な治療薬が限られており, 人類にとって脅威である. コリスチンは, それら MDRA をはじめとするグラム陰性菌の重篤感染症の最後の砦として使用されている薬剤である. しかし, A. baumannii は, 高頻度でコリスチンに耐性を示すことも報告されている. そこで, A. baumannii の コリスチン耐性株を樹立し, その性状を解析し, 好中球によるコリスチン耐性株の殺菌メカニズムの詳細を解析した. その結果, LPS 欠損株が樹立され, 親株は好中球にほとんど殺菌されないのに対して, LPS 欠損株は好中球によって顕著に殺菌された. さらに, 好中球が産生するリゾチームが LPS 欠損株のクリアランスに寄与していることが明らかとなった. 本研究から, A. baumannii は, LPS を完全欠損することでコリスチンに対し耐性を獲得するが, この耐性菌株は, 好中球の産生するリゾチームにより容易に殺菌されるため, 医療現場での大規模な蔓延には至っていないことが示唆された. 現在, 本研究内容を投稿論文の形で報告すべく, 論文の執筆中である.
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Strategy for Future Research Activity |
申請者はこれまで, Acinetobacter baumannii が好中球をタクシーのように利用することで生体内を移動し, 敗血症や感染拡大を引き起こす, 新規細菌移動メカニズム“Bacterial immunity taxi”を明らかにし, 解析してきた. H29, 30年度の研究で, 新たな A. baumannii の病原性として, 好中球の新規細胞死経路である NETs (neutrophil extracellular traps) 形成阻害による好中球の寿命延長作用, 細菌表層の分子の変化による好中球の応答性の変化を明らかにしてきた. 最終年度である今年度は, さらに直接的に Bacterial immunity taxi をターゲットにした治療戦略の提案を目指す. これまでの研究から, 好中球が浸潤する際に働くタンパク分解酵素 matrix metalloproteinase (MMP)-9 の産生が細菌刺激により変化することを明らかにしており, これらプロテアーゼに焦点を当て研究することを計画している. 実際, 臨床現場で使われるテトラサイクリン系の薬剤は, MMPs の阻害作用があることが知られているが, 細菌感染において MMPs に作用し, 感染を抑制していることを証明した研究はない. そこで, これまでに構築した in vitro 浸潤実験系に, テトラサイクリン系薬剤などの MMPs 阻害剤を添加し, 評価を行う. その後, マウス感染モデルを用いた in vivo 実験系でも Bacterial immunity taxi におけるプロテアーゼの重要性やその阻害による感染制御の可能性を示す.
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Causes of Carryover |
当該助成金が生じた理由は, 今年度から所属先を移ったため, 異動の準備等で実験計画が少し遅れたためである. 当該助成金は, 本年度の研究計画で, マウスを多く購入する予定があるため, 消耗品の購入に充てる予定である.
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