2018 Fiscal Year Research-status Report
ターゲットシークエンス法による全前脳胞症の遺伝学的診断基盤の確立
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17K16236
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
阿部 裕 東北大学, 大学病院, 助教 (00789787)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 全前脳胞症 / Binderoid cleft / Binder症候群 |
Outline of Annual Research Achievements |
全前脳胞症(Holoprosencephaly:HPE)はヒトの脳や顔面に奇形を呈する疾患の中で最も発生頻度の高い疾患の一つである。胎児期早期の神経管の腹側化障害により左右の大脳半球(前脳)が分離不全を生じ,正中部で大脳皮質・基底核・視床の癒合を認め、顔面正中部の異常を呈する。 唇顎口蓋裂症例の中には、鼻中隔や鼻柱などの低形成や中間顎の狭小化、眼窩間距離の短縮といったHPEを思わせるような顔貌を呈しながらも、脳実質の構造や知能・身体発達面に明らかな異常がない症例が存在する。このように、画像診断上脳に奇形を認めず、知能発達面に異常がない症例について、HPEのnormal endにも属さない全く独立した疾患として、Binderoid complete cleft lip/plateという概念が従来提唱されてきた。 これまでBinderoid cleft lip/plateにおける遺伝学的背景はほとんど明らかにされていない。我々はHPEの表現型が軽症から重症まで非常に幅があり、同じ遺伝子変異を有していても表現型は一定ではない点に着目し、Binderoid complete cleft lip/plateがHPEのスペクトラムと証明されるかどうか、という点に焦点を当て解析中である。 平成30年度中に、東北大学病院小児科・形成外科・宮城県立こども病院から2例の典型的なHPE症例に加えBinderoid complete cleft lip/plateと診断された症例17例を同定した。東北大学医学系研究科の遺伝子検査に関する指針などに従って作成した同意書を用いて、主治医が患者もしくは家族よりインフォームドコンセントを取得中である。同時に環境要因の解析のため、調査票を用いて両親の年齢、職業、既往歴、生活歴、内服薬の有無などについて情報を収集中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究の遂行にあたっては、平成29年度中に東北大学大学院医学系研究科倫理委員会の承認を得た(「研究課題:次世代シークエンサーを用いた網羅的解析による全前脳胞症の遺伝子解析研究」、受付番号: 2017-1-195)。症例収集については平成29年度中に当院および関連病院に周知し、現在までにBinderoid cleftlip/plateを含む17例が同定された。さらに典型的なHPE2症例を同定した。当初の予定では平成30年度中に既知の遺伝子変異の同定、及び HPEの発症に関わる主要なpathway に含まれる遺伝子の変異の同定までを想定していたが、現時点でそこまでは到達していない。本研究を遂行するにあたり、個々の症例に対する本研究参加へのインフォームドコンセントに十分な時間をあてているため、検体および臨床症状の収集に想定よりも時間を要している。今後も引き続き十分な説明を行い、インフォームドコンセントを得た上で研究を遂行する方針である。MLPA 法やCGH アレイ法による解析は、すでにセットアップが完了している。次世代シークエンサーについても当院当科で運用が開始されており、その協力を得て速やかに研究を行える状況である。Targeted NGS assay に関してはアメリカ国立衛生研究所のDr. Maximilian Muenke の研究室で先行研究が進行中であり、技術的支援を受けることが可能である。
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Strategy for Future Research Activity |
収集した症例に対し、引き続き以下の順序で解析を進める。 (1) G-banding:13トリソミー・18トリソミー・三倍体など染色体の数の異常の検索のために行う。末梢血中の分裂中期(metaphase)の白血球のギムザ染色により染色体を観察する。状況に応じて、当院あるいは協力病院にて施行する。(2) CGHアレイ、MLPA(Multiplex Ligation-dependent Probe Amplification):染色体の微小な欠失・重複、及びCopy Number Variantの検索のために行う。CGHアレイ解析はAgilent Technologiesの180K+SNP用の解析キットを用いて行う。Microarray Scanner、サーマルサイクラーなどの機器は、当院当科で所有しているものを使用する。(3) Targeted NGS assay:既知の遺伝子変異の同定、及びHPEの発症に関わる主要なpathwayに含まれる148遺伝子の変異を同定する。これらのエクソン領域 (コーディング領域、UTR)に加えて、ECRbrowserを用いて同定した非コーディング領域のevolutionarily conseved reigion(ECR:脊椎動物において種を超えて保存されている領域)を解析領域に含める。 上記の解析(G-banding、CGHアレイ、MLPA、Targeted NGS assay)で原因が同定されなかった症例についてはトリオ(発端者と両親)に対し全エクソームシークエンスを施行し、未知の遺伝子変異の同定を試みる。
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Causes of Carryover |
この研究では、MLPA 法で用いるサーマルサイクラーやシークエンサー(次世代シークエンサー)、CGH アレイ法に必要なスキャナーなどの大型機器は当研究室、および遺伝医療学分野研究室や東北大学医学部共同実験室にあるものを使用するため計上しない。よって必要なのは主として遺伝子解析に必要な実験試薬、プラスチック備品、データの保存解析等に使用するPC などである。当初平成30年度に計上していたエクソームシークエンス用のHuman エクソームキットベイトライブラリー(16 サンプル分kit)、CGH マイクロアレイ用のCGH microarray kit(180K CGH+SNP) (10 サンプル分)、MLPA用のプローkit(100reaction)、 DNA 抽出などその他の試薬代とプラスチック備品代を平成31年度に計上する。同じく、CGH アレイによる解析では1 検体の解析に約70 千円程度、次世代シークエンサーを用いた解析は1 検体の解析に約100 千円程度必要となるためそれらを平成31年度に計上する。 当院以外の病院における倫理委員会やインフォームドコンセントに関する経費、また、国内の学会や研究会に参加し、あるいは論文作成して研究についての報告を行い、更なる症例収集を行うため、旅費やその経費を必要とする。
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