2017 Fiscal Year Research-status Report
乳児型Pompe病患者iPS細胞を用いた多系統組織モデルの確立ならびに病態解析
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17K16253
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
吉田 健司 京都大学, 医学研究科, 助教 (50790557)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | Pompe病 / 疾患特異的iPS細胞 / 骨格筋細胞分化誘導 |
Outline of Annual Research Achievements |
Pompe病はライソゾーム酵素である酸性α-グルコシダーゼ(GAA)が先天的に欠損することで、全身の組織にグリコーゲンが蓄積するライソゾーム蓄積病の一つであるが、臓器によって酵素補充治療への反応性が異なることが臨床上問題となっている。本研究では重症型である乳児型Pompe病患者由来iPS細胞を複数の組織系に誘導し、病態の違いを解明し、新たな治療アプローチを確立することを目的とする。
本年度は患者iPS細胞由来骨格筋細胞の病態解析を中心に行った。3人の乳児型Pompe病患者と3人の健常者からiPS細胞を樹立し、骨格筋細胞に分化誘導した。筋分化に関わるMYOD1を強制発現させることにより、効率的かつ短期間で十分量の骨格筋細胞を得ることができた。その結果、患者iPS細胞由来の骨格筋細胞においてライソゾーム内グリコーゲンの異常な蓄積を認め、これらのグリコーゲン蓄積は、培養中にヒト遺伝子組換えGAAを添加することで用量依存的に改善を認めた。これらのことから、患者iPS細胞を用いて治療効果判定に有用な骨格筋モデルを確立することができたと考えられる。
さらに、患者iPS細胞由来の骨格筋モデルを用いて、ライソゾーム関連シグナル伝達の中心的な役割を担うmTORC1の活性が障害されていることを明らかにし、網羅的な解析によりエネルギー代謝を含む様々な下流シグナルが変化しているという知見を得た。一方、比較的軽症となる遅発型Pompe病患者やマウスモデルで報告されているオートファジー障害は明らかではなかった。これらをまとめると、乳児型Pompe病の骨格筋の初期病態において、ライソゾーム関連シグナル伝達の障害が関与していると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの進捗はおおむね当初の計画範囲内と考えられる。患者iPS細胞を複数ライン樹立し、骨格筋への分化誘導や病態解析を行い、そこまでを論文として発表することができた。Pompe病の骨格筋症状に対しては、現在唯一の治療法である酵素補充の効果が不十分であり、最も重要なターゲット臓器である。その骨格筋モデルをまず確立できたという点で、順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
乳児型Pompe病において病初期から障害される主な臓器は骨格筋、心臓、肝臓の3種類である。これら罹患臓器の内、心臓と肝臓は治療への反応性が良好であるのに対し、骨格筋では限定的である。さらに、近年、酵素補充治療を継続している乳児型Pompe病患者において、中枢神経や血管内皮障害が報告され、晩期合併症として問題になっている。このような複数臓器における病態の違いを評価するため、次年度は樹立した患者iPS細胞から心筋細胞と幹細胞への分化誘導を勧め、骨格筋細胞で見られた病態を同様の解析方法で評価する。研究の進展が良好であれば、神経細胞や血管内皮細胞への分化誘導、病態解析も検討する方針とする。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由として、網羅的解析など外部委託した検査が見積もりよりも安かったことや、抗体や試薬がすでに保有していたもので十分であったことが挙げられる。次年度使用額は物品の購入費として充当する予定である。
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Research Products
(2 results)