2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K16293
|
Research Institution | Institute for Developmental Research, Aichi Human Service Center |
Principal Investigator |
加藤 君子 愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所, 遺伝学部, 研究員 (30598602)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | X連鎖性疾患 / Skewed X染色体不活性化 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、知的障害および運動発達遅滞が見られ、X染色体上に欠失をもつ女児2例について、解析を行った。まず、FISH法により、両女児の末梢血リンパ芽球の染色体構造を解析したところ、Gバンド分析ではX長腕端部欠失(Xq26-ter)と同定されていたが、実際には、共に、Xq27q28欠失であることが明らかとなった。そこでSNPアレイCGHにより、詳細な欠失領域の同定を行った。その結果、症例1の欠失領域は約9.2 Mb、症例2では約11.0 Mbで、ほぼ同じ領域(Xq27.1q28)が欠失していることが明らかになった。この欠失領域には、脆弱性X症候群の原因遺伝子(FMR1およびFMR2)やハンター症候群の原因遺伝子(IDS)などが局在している。しかし、興味深いことに、一方の患者では症状がより重度であった。これは、異常X染色体が活性化している細胞の比率が関係していると考えられた。そこで、患者の末梢血由来のDNAを用いて、X染色体不活性化解析を行った結果、症例1ではランダムなX染色体不活性化、症例2では正常なX染色体の偏った不活性化が認められた。さらに、患者リンパ芽球に対して、抗FMR1抗体を用いて免疫染色を行った結果、症状の重い患者(症例2)では、欠失を含むX染色体が偏って活性化したため、症例1より重症となった可能性が考えられた。さらに、nascent RNA FISHによりX染色体不活性化の状態を確認した。その結果、両患者とも片アレル性発現は正常に維持されていることが明らかとなった。 以上の結果は、Xq27.1q28欠失が生じると、X染色体不活性化は正常に起こるものの、その様式は必ずしもランダム型ではなく、偏った不活性化が起こりうることを示している。また、少なくともXq27.1q28領域に欠失を持つ患者では、X染色体不活性化の状態は、病態の重症度を予測する指標として用いることができると考えられた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は、知的障害および運動発達遅滞が見られ、X染色体上に欠失をもつ女児2例について、欠失領域を同定し、X染色体不活性化の解析を行った。しかし、解析の結果、欠失領域は当初予測されていたXq26-ter領域ではなくXq27.1q28であることが判明した。この領域にはMECP2は含まれていない。当初は本患者の症状がMECP2を欠失するRett症候群と関係すると考えていたため、Rett症候群患者およびMECP2重複症候群患者の末梢血およびリンパ芽球を用い、X染色体不活性化の状態を比較する予定であった。しかしながら、MECP2が2例の患者の疾患とは関係ないことから、2例の患者単独で解析を行うことにした。 この結果、偶然にも2例の患者は欠失領域がほぼ同じであることが判明し、「X染色体不活性化と病態の関係を明らかにする」という研究の「目的1」を達成するのにふさわしい検体であることが分かった。患者末梢血およびリンパ芽球を用いた解析から、少なくともXq27.1q28領域に欠失を持つ患者では、X染色体不活性化の状態は、症状の重症度と相関していることを明らかとした。この知見はXq27.1q28欠失の女児の病状を報告した過去の論文とも矛盾しない(Clark et al., 1990,91,92, Marshall et al., 2013など)。現在、研究をまとめ論文を作成している最中である。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究から、Xq27.1q28欠失の患者では、ランダム型X染色体不活性化、および偏ったX染色体不活性化の両者を取り得ることが明らかとなった。しかし、同じような欠失をもつにも関わらず、なぜこのような異なる不活性化形態をとるのかは不明である。また、仮に欠失をもつX染色体が偏って不活性化していれば、症状はごく軽いか現れない可能性もありえ、欠失を持つX染色体の不活性化メカニズムを明らかにすることは病態解明・新たな治療法の創出のために不可欠であると考えられる。 そこで、今後は患者由来のリンパ芽球からiPS細胞を作成し、神経細胞へと分化させることで、異なるX染色体不活性化状態を取った原因を明らかとする。可能性としては、以下の3点が考えられる。①健常人女性の8-12%では偏ったX染色体不活性化が生じている。今回認められた偏ったX染色体不活性化も偶然生じたものである。②Xq27.1q28欠失をもつX染色体が特異的に活性化する分子機構が存在する。③X染色体不活性化はランダムに生じるが、その後、異常X染色体が活性化した細胞が優位に生き残る。これらに着目し、細胞分化の様子を経時的に追うことで、不活性化の機構を明らかにしたい。 また、患者のリンパ芽球では、不活性なX染色体の高次クロマチン構造が緩んでいる可能性を示す予備的知見を得ている。高次クロマチン構造の弛緩はX連鎖遺伝子の両アレル性発現に関与する(Giorgetti et al., 2016)。そこでこの可能性を追求するために、X染色体の長腕から短腕までの様々な部位にプローブを作製し、RNA-FISHを行うことで、X染色体不活性化が染色体全域に渡って正常に維持されているのかを調べる。また、3次元FISHを行い、Xq27.1q28欠失が不活性X染色体の形成・維持に与える影響についても明らかにしたい。
|
Causes of Carryover |
次年度は、本年度に終了しなかった研究の継続を継続して行う。本年度はiPS細胞の樹立およびその品質チェック、iPS細胞から神経細胞への分化の系の確立に時間を要すると考えられる。このため。神経分化過程におけるX染色体不活性化状態の解析の実験を、本格的に始めることができるのは次年度であると考えている。iPS細胞の培養には高額な培養液や栄養因子等が必要となるため、3年目ではあるが多めの使用額が提示されている。 また、次年度はそれまでに得た研究成果を論文として世に広く発表するための論文投稿費および国際学会で発表するための予算も計上してある。
|