2018 Fiscal Year Research-status Report
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17K16293
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Research Institution | Institute for Developmental Research, Aichi Human Service Center |
Principal Investigator |
加藤 君子 愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所, 遺伝学部, 研究員 (30598602)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | X染色体不活性化 / X連鎖性疾患 / skewed X inactivation |
Outline of Annual Research Achievements |
平成18年度は一昨年度に引き続き、Xq27.1q28欠失の女児について解析を行った。本欠失をもつ2例の女児はともに知的障害および運動発達遅滞が認められる。しかし、同じ領域に欠失を持つにもかかわらず、1方の女児は症状がより重篤である。これまでの研究から、症状の違いはX染色体不活性化の偏りに依存することが明らかになっている。すなわち、症状が重篤な女児では、2本のX染色体のうち、欠失をもつ方のX染色体が偏って活性化していた。本年度は、このようなX染色体不活性化の偏りが生じた原因を探索するため、患者およびその両親の末梢血ゲノムDNAを用い、エキソーム解析を行った。この結果、7つの遺伝子にde novo mutationが見いだされた。しかしながら、これらの遺伝子の中で、X染色体不活性化との関わりが報告されているものは無く、X染色体不活性化の偏りが生じた原因を明らかにするには至らなかった。 上記のエキソーム解析の結果から、偏りのあるX染色体不活性化には、特定の遺伝子配列が関与しているのではなく、胚発生の初期にX染色体不活性化が確立する際に、何らかの事象が働いているものと考察された。 Naïve型のヒトiPS細胞は2本のX染色体がともに活性な状態にあるとされている。すなわち、X染色体不活性化が起こる前の状態を取っている。そこで、偏りのあるX染色体不活性化を示す女性から作製されたiPS細胞を用いることで、X染色体不活性化に偏りが生じる原因を明らかにできるものと考えた。本メカニズムを明らかにすることができれば、人為的に不活性化するX染色体を選択することができる可能性にもつながり、X連鎖性疾患女性に対する非常に有効な治療法となり得ると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Xq27.1q28欠失の女児2例については、FMR1, FMR2, IDSを含むXq27.3q28領域に欠失を持つ女児では、中~重度の知的障害と運動発達遅滞を併発することを示すこと、また、患者のX染色体不活性化の程度が症状の重篤度と相関していることを示す研究が完了し、論文の投稿準備を進めている。 上記のXq27.1q28欠失女児において認められた、偏りのあるX染色体不活性化の原因を追究するために、患者および両親の末梢血の提供を受け、エキソーム解析を行った(東京大学医学研究科との共同研究)。しかし、偏りのあるX染色体不活性化を生じさせる原因となるような遺伝子異常は認められなかった。X染色体不活性化は、胎生期のごく初期に起こることも併せて考えると、患者由来のリンパ芽球を利用した研究からは、X染色体不活性化の偏りが生じる原因を追究することは難しいことが判明した。そこで、代替策として、X染色体不活性化の偏りをもつRett症候群女児由来のiPS細胞を用いて、研究を続けることとした。一方、Naïve型のiPS細胞はX染色体不活性化がリセットされた状態であるとされているが、元となる細胞のX染色体不活性化の記憶をとどめているとの報告もある。現在はiPS細胞がどの程度X染色体不活性化の記憶をリセットしているのか、リセットできていないとするならばどのようにその状態をリセットしたらいいのかを調べる準備を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
X染色体不活性化の偏りをもつRett症候群女児由来のiPS細胞を用いて、X染色体不活性化の偏りが生じるメカニズムの解明を目指す。X染色体不活性化の偏りは、1)細胞増殖や生存に関係する遺伝子が変異することにより、2次的に特定の一方のX染色体が不活性化している細胞が有意に増加する場合、2)X染色体不活性化の確立を直接制御する遺伝子が変異することにより、片方のX染色体を不活性化できなくなる場合の2通りが考えられている。しかしながら、今回我々が報告するXq27.1q28欠失の例では、欠失領域に、細胞の増殖や生存に関連する遺伝子も、X染色体不活性化を直接制御する遺伝子も認められないことから、X染色体不活性化の偏りを生み出す、第3のメカニズムが存在することを示唆している。Rett症候群の主な原因遺伝子であるMECP2に関しても、現在のところ遺伝子欠失が細胞の増殖や生存に影響するとの報告はない。本研究が完成すれば、新規のX染色体不活性化制御メカニズムを提唱できる可能性がある。 ヒトiPS細胞はオリジナル細胞のX染色体不活性化の記憶を保持しているとの報告がある。このため、本研究を行うためには、X染色体不活性化の記憶を消去したiPS細胞の作出が必要となる。今年度は、まず、X染色体不活性化の記憶を消去したiPS細胞の作出を目指す。その後、X染色体不活性化の偏りが認められる女性に由来するiPS細胞とそうでないiPS細胞において、X染色体不活性化の確立様式を比較する。
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Causes of Carryover |
当該年度内に、ヒトiPS細胞の培養が研究において必要となったた。 ヒトiPS細胞用の培地は、自作することも可能であるが、自作培地では上手くiPS細胞の培養を行うことができなかったため、市販品を購入することにした。市販品のiPS細胞様培地は非常に高価であるため、当初計画していた研究費では不足が出ると考え、前倒し請求を行った。しかしながら、所属する研究施設の新設に伴う移設にともない、研究が一時的に停止した。このため、前倒し請求を行った際に計画していた金額を、全額使用することにはならなかった。 前年度から繰り越した金額については、当初の計画通りiPS細胞用の培地の購入に充てる予定である。
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Research Products
(1 results)