2018 Fiscal Year Research-status Report
放射線がん治療におけるバイスタンダー効果の機構解明
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17K16496
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Research Institution | National Institutes for Quantum and Radiological Science and Technology |
Principal Investigator |
小林 亜利紗 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学総合研究所 加速器工学部, 技術員(任常) (30773931)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 放射線誘発バイスタンダー効果 / 放射線がん治療 / ヒドロキシラジカル / 肺がん |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は放射線誘発バイスタンダー効果に線質依存性があるか評価することを目的とした。そのために放射線により生成されるヒドロキシラジカルを、チオ尿素で消去することで異なる線質を模擬した。ヒト肺がんA549細胞にチオ尿素有(TU+)・無(TU-)条件でX線照射し、同一生存率を示す線量に対するバイスタンダー効果を評価する為、細胞生存率からLQ Modelで生存率曲線を求めた。またチオ尿素によるOHラジカル捕獲効率を活性酸素種蛍光試薬の蛍光量から測定した。その結果同一生存率において、TU+はTU-に対して約45%のOHラジカルを消去し、鉄イオン(500 MeV/n)に相当した[Maeyama et al, Radiat Phys Chem, 2011]。上記の生存率曲線を基に、本年度は、バイスタンダー因子ならびにバイスタンダー効果の指標として、プロスタグランジン(PGE2)及びその代謝に関与するシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)の発現について線質依存性があるかを評価した。はじめに、X線をA549細胞に1, 3, 5, 8 Gy照射したところ、COX-2およびPGE2の産生量は、5 Gyで最大を示した。それに対し、TU+条件でのX線照射(5 Gy)を行った場合、有意なCOX-2とPGE2の抑制が見られた。これは同一生存率を示すチオ尿素有の8 Gyにおいても、同様であった。以上の結果から、放射線誘発バイスタンダー効果には線質依存性が存在することが明らかになった。そして、COX-2とPGE2を指標とした場合、放射線の線質のうち、間接作用と直接作用の量や割合が、バイスタンダー効果(因子)の発現および伝播の決定に重要な役割を担っていることが判明した。これらの成果はJournal of Radiation Researchに投稿し、掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実験計画書ならびに今後の研究の推進方策として提案した実験の①-⑤について実施する事ができた。 ①X線照射細胞・バイスタンダー細胞のCOX-2発現およびPGE2の産生について、TU-、TU+条件の両方で調べる事で、COX-2とPGE2発現には線質依存性がある事が分かった。更に②バイスタンダー細胞のCOX-2発現因子としてPGE2が関与する事を調べる為、A549細胞にPGE2を添加した所、1時間後から有意なCOX-2発現が起こる事を示した。次に③照射細胞・バイスタンダー細胞におけるCOX-2の発現経路を探索する為、COX-2上流のAktとERKのリン酸化について評価を行った。現在迄の結果として照射細胞においてTU+条件はTU-条件と比較して有意にAktとERKのリン酸化が抑制された。しかし、バイスタンダー細胞側のCOX-2発現についてはTU-とTU+条件で差が見られなかった事から、線質に応じてバイスタンダー応答(COX-2発現)経路が異なる事が示唆された。異なる線質によるバイスタンダー応答・機序を調べる為④陽子線マイクロビームを用い、異種細胞(がんA549細胞+正常WI-38細胞)ならびにがん細胞(A549細胞)のみの2つの条件でA549細胞への狙い撃ち照射を行った。その結果、A549細胞へのバイスタンダー効果は培地介在性経路を介し伝播する事を見出した。この成果はRadiation Protection Dosimetryに掲載された。そして⑤量研の重粒子線がん治療装置HIMACを用いて治療に用いられる炭素線13 keV/um(皮膚表面)と70 keV/um(がん患部)を細胞に照射し、バイスタンダー効果の線質依存性についてCOX-2を指標に評価を行った。現在までに13 keV/umと70 keV/umの炭素イオン照射によるバイスタンダー応答に線量依存性が存在するという結果を得た。
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Strategy for Future Research Activity |
本課題のこれまでの研究成果によって、バイスタンダー効果に線質依存性があることを明らかにすることができた。今後は、バイスタンダー効果機序の解明を目指し、照射細胞・バイスタンダー細胞のCOX-2発現経路について調べていく。そのために、今回明らかになったAkt、ERK活性が関与するCOX-2転写因子であるcAMP Response Element Binding protein(CREB)およびNuclear Factor-kappa B(NF-κB)の活性について、X線照射(1-8 Gy)、TU-、TU+条件で調べていく。さらに、マイクロビーム照射装置を用いた陽子線照射によって、A549細胞へのバイスタンダー効果因子には培地介在性経路がメインの経路であることを見出した。今後、陽子線マイクロビームを用いてバイスタンダーA549細胞にCOX-2発現が起きるかどうか、そして、バイスタンダー細胞へのCOX-2発現に線量・線質依存性が存在するかどうか、1か所あたりの照射線量を変えて照射を行うことで解析していく。 また、現在量研重粒子線がん治療装置HIMACを用いて、炭素線13 keV/um(皮膚表面)と70 keV/um(がん患部)を細胞に照射し、バイスタンダー効果の線質依存性についてCOX-2を指標に評価を行っているが、TU+条件における直接作用比は鉄イオン(500 MeV/n)相当であることが示されていることから、本研究において実際の鉄イオン(500 MeV/n)照射を行い、バイスタンダー応答の線質依存性が見られるか検討する。
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Research Products
(7 results)