2019 Fiscal Year Research-status Report
補体第3因子阻害による凝固・補体系抑制を介した肝細胞移植後早期炎症反応の制御
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17K16525
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
中西 渉 東北大学, 大学病院, 助教 (50636024)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 肝細胞移植 |
Outline of Annual Research Achievements |
・肝不全にいたった病態に対しては、現在唯一の根治的な治療として肝移植があり、通常診療として行われている。しかしながらドナーの絶対的な不足により必要とされる方の約40%は受けることができない。また肝移植は全身状態が不良な方に対して行われる侵襲の大きな手術であり、合併症などから周術期に1割程度の方が死亡されている。肝細胞移植は、肝移植には用いることのできないグラフトであっても使用可能である点や、低侵襲であることから肝移植に代わりうる治療として注目されている。世界的には100例程度臨床での報告がみられる。 ・グラフトとして摘出した肝臓を肝細胞分離を行い、細胞の状態として経門脈的に投与し肝内に生着させ、低下した肝機能を改善させる治療法である。肝細胞移植の問題点として、移植した肝細胞の生着率が不良であることがある。その原因として経門脈内投与を行う際、肝細胞が血液に直接暴露されることによって強力な原子免疫反応であるinstant blood mediated inflammatory reaction(IBMIR)によって、移植した肝細胞の大部分が破壊されてしまう現象が指摘されている。IBMIRはtissue factor(TF)が引き金になるとされるが、肝細胞にはTFが多く発現していることもIBMIRを引き起こす原因と考えられる。 ・膵島移植でもこのIBMIRによって移植した膵島が移植直後にかなりの割合で破壊されることが判明しており、この際凝固系のみならず補体系も関連して活性化する。現在補体系の制御も膵島移植では重要であることが明らかとなった。 ・本研究は移植直後の補体系の制御し、肝細胞の生着率を上昇させることを目的としている。この研究によって補体系を制御することの意義が確認されれば、現在は凝固系の制御のみ行われている現状からさらに生着率を向上することが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
・肝細胞移植のモデルとしては、無アルブミンラットをレシピエントとして用いた肝細胞移植のモデルを構築した。グラフトとして同系のアルブミンを産生する肝臓からの肝細胞を移植することにより、レシピエントのアルブミン値を測定することにより移植生着を簡易に判定が可能である。 ・このモデルにおいて、補体系を制御するためにC3およびC5の抗体を経静脈的に投与することを検討した。しかしながらより臨床での使用を考慮して、C3阻害には剤であるcompstatinを、C5aの阻害剤であるC5a inhibitorを用いて行う方針とした。さらに投与薬剤の効果を最大限得るためには、肝細胞移植時に同じ部位で投与するために肝細胞移植と同時に経門脈的投与経路を行うこととした。これをラットにおいて安定して実現するためには、門脈自体は肝細胞移植に用いているため使用できないことから、経脾静脈的に投与することを模索した。しかしながらラットにおいては直接穿刺は困難であるため、脾臓を穿刺し、経脾臓的に薬剤を投与する経路とすることを試みた。この経脾臓的薬剤投与モデルの構築に難渋したが、安定した手技の確立にいたった。 ・次の段階として、ようやく実際に薬剤を投与して効果を判定する段階にきた。現在compstatinさらにC5a inhibitorを併用したモデルでその結果を観察中である。
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Strategy for Future Research Activity |
CompstatinおよびC5a inhibitorを移植と同時に経門脈投与した場合の解析結果を確認する。補体制御効果の解析については移植後生着率に有意な差を認めない場合は抗C3抗体および抗C5抗体の全身投与も行い補体を強力に抑制し、その補体制御効果による肝細胞移植への影響についても確認する予定である。それでも有意な効果が確認できない場合でに効果が確認されている凝固系の阻害を行った上で、補体系制御を併用した場合に移植成績への影響を確認する予定である。補体制御効果が確認された場合、メカニズムの検証については移植後サイトカインの動態をBioplexを用いて行い、また免疫染色、フローサイトメトリーについても行う予定である。
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Causes of Carryover |
無アルブミンラットを用いた肝細胞移植は前年度までに確立していた。さらに薬剤の経門脈投与を行う目的で、新たに脾臓から投与するモデルを構築した。この構築のための手技の安定化に専念したため、実際の薬剤を投与する実験が遅れた。このため薬剤の使用が少なかったために、薬剤やまたその効果の解析実験のための費用を使用できなかった。
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