2017 Fiscal Year Research-status Report
ホスト脳環境の至適化による多能性幹細胞移植治療の開発促進
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17K16642
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
佐俣 文平 京都大学, iPS細胞研究所, 特定研究員 (80779166)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 再生医療 / 大脳皮質 / iPS細胞 / 脳血管障害 / 細胞移植 / 炎症 / 神経回路再生 |
Outline of Annual Research Achievements |
皮質傷害後の成体マウスに細胞移植を行うことで生着促進効果や血管新生作用が報告されている。さらに皮質傷害マウスを用いた予備実験からは移植片由来の神経軸索伸展効果も確認されており、この作用が皮質傷害後の期間によってどのように変化するのかを調べた。具体的には、11週齢のマウス皮質傷害後の異なる時期(直後、7日間、14日間、28日間)に胎仔マウスの皮質領域を移植した。移植2ヵ月後の解析からは傷害後7日目に移植した群で傷害側の線条体や大脳脚、視床において移植片由来神経軸索の有意な伸長を認めた。さらにマウス錐体交叉に逆行性標識試薬を投与したところ、移植片内に標識された細胞が多数見られ、移植片由来の神経軸索伸展が脊髄付近まで到達していることが分かった。一般的に、成体の脳環境は軸索伸長阻害因子等に曝されているため、細胞移植には不向きな環境と考えられている。本研究成果は細胞移植におけるホスト脳環境の重要性を示唆するものであり、この課題に取り組むことによって移植治療の効果促進が期待される。 現在は移植後の神経軸索伸長作用を示す因子を同定するために、皮質傷害後に発現が増加する遺伝子の探索に取り組んでいる。皮質傷害直後および傷害7日後における皮質組織の網羅的遺伝子発現解析からは多様な遺伝子の発現変化が認められた。今後はこれらの遺伝子の中から分泌性因子に着目したスクリーニングを行い、HEK293細胞を用いた強制発現実験によって候補因子の機能解析を進めていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
11週齢のマウス皮質領域に傷害を加え、皮質傷害後の異なる時期(直後、7日間、14日間、28日間)に胎生14日齢のEGFPマウス皮質領域を移植した。術後2ヵ月の時点で還流固定を行い、免疫染色によって移植片の有無を調べたところ、すべての群で半数以上の個体に細胞生着を認めた。また、傷害後7日目に移植した群で傷害側の線条体や大脳脚、視床において移植片由来神経突起の有意な伸長を認めた。同群の錐体交叉に逆行性標識試薬を投与したところ、移植片内で逆行性に標識される細胞が複数個認められた。これは移植片由来の神経突起が脊髄付近まで到達していることを示唆する。以上から、皮質傷害後は脳環境が一過性に変遷しており、そのような環境変化は移植細胞における神経突起伸長促進効果を示すことが分かった。
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Strategy for Future Research Activity |
移植後の神経突起伸長に寄与し得る因子を以下の流れで探索する。まず、皮質傷害直後および7日後における皮質組織の遺伝子発現量が8倍以上変化する候補因子を抽出する。次に、データベースを用いて候補因子に含まれるシグナル配列の有無から分泌性因子を絞り込む。その後、文献等を参考にして候補因子をさらに絞り込み、それらについて強制発現細胞株を用いた機能解析を行う。具体的には、候補因子を発現するHEK293細胞を作製し、その培養上清を用いて胎仔マウスの皮質細胞における神経突起伸長促進効果を有すものをin vitro条件下で検証する。その後、候補因子の脳内局在および発現細胞をin situハイブリダイゼーション法により明らかにする予定である。また組換えタンパク質を用いて神経突起伸長促進効果を示す至適濃度をin vitro条件下で検証する。これら基礎データの結果を参考にして、ヒトiPS細胞由来大脳皮質様細胞の神経突起伸長促進効果が認められるか否かを検討する。最終的に、候補因子の徐放化カプセルまたは強制発現細胞株を用いた移植実験により、移植片由来の神経突起伸長が認められるか否かを検証する。
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