2017 Fiscal Year Research-status Report
Development of Extracorporeal Lung and Renal Assist Device [ELRAD]
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17K17042
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
高橋 希 千葉大学, 医学部附属病院, 医員 (30770268)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 重症呼吸不全 / 体外循環 / 酸塩基平衡 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,酸塩基平衡を利用してCO2の除去効率を高め,さらに血液透析を組み込んで酸塩基平衡を調整することで,肺と腎臓の両方の臓器補助能を有する新規人工臓器(Extracorporeal Lung and Renal Assist Device [ELRAD])を開発し,その有効性,安全性を実証するものである.本年度は,まず動物実験の前段階として,以下の実験を行った. 実験1:二酸化炭素(CO2)注入・除去のex-vivo実験系確立 豚血を用いて, CO2注入用人工肺・CO2除去用人工肺・ヘモフィルターの順番に接続したex vivo回路を用いて,CO2除去用人工肺に酸素, CO2注入用人工肺にCO2を流し, CO2を除去・溶存可能であることを確認した.また, CO2濃度を60-70mmHg程度(pH7.4)に安定させられる条件を得た.これにより呼吸不全モデルの血液を得た. 実験2:塩酸または乳酸の指摘投与量の実験 ヘパリン加豚血に1mol/Lの塩酸および乳酸を追加したうえで血液ガス分析を行った.これによりCO2濃度が200-250mmHg (pH 6.8)まで上げられる投与量を得た. 実験3:Ex-vivo 酸投与実験 実験1で見出した条件下でex vivo回路を構成し, さらに酸の投与を行った. ①酸非投与下ではCO2濃度が高いままだが,実験2で得られた酸投与量で除去効率が高まった.②CO2濃度60-70mmHg程度(pH7.4)にはじめに揃えて,CO2濃度の減少推移を酸投与と酸非投与で比較しデータを得た. 実験4:人工肺の酸素流量に関する実験 ①酸素流量の変化によるCO2除去効率の変化の確認 酸素流量を徐々に増加させて, CO2濃度の低下を確認した.②人工肺後のpHと塩酸投与時のCL濃度の確認. 塩酸および乳酸投与後のpHおよび高乳酸・CL血症の有無を確認した.結果として,軽度の高乳酸血症は認められたが,高CL血症は生じなかった. 実験5:ヘモフィルター後のpHの確認と透析液流量の至適化に関する実験 人工肺後のpHを確認し,透析液流量を調節した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画どおり,動物実験を前提としたex-vivo実験系の確立を行った.この実験において,呼吸不全モデル動物と同等の血液を作成し,またその血液を用いてERLADを実行することで,CO2がより効率的に除去できることを示した. 動物実験にあたって,最終的に生成される血液に著しい問題点が無いかの確認も行った.すなわち,酸を投与することで溶血反応などの血液的有害事象が生じないか,またpHが7.35-7.45 から大きく逸脱していないか,塩酸の投与によって高CL血症が生じないか,乳酸の投与によって高乳酸血症が生じないかである.これらのうち,乳酸投与による高乳酸血症は見られたが,その程度は軽度であり,一般的な運動で生じる量と比較すれば小さなものであることから,ただちに有害事象であるとは考えられなかった.しかし,動物実験に移行するにあたっては,塩酸を選択することを検討している. すでに非酸投与での回路実験を豚で確認しており,その回路自体の安全性は確認できている.次年度は,実験用動物豚を用いて有用性と安全性を確認するため,現在その設定を調整している. ここまでの進行は,先に提出した計画書とほぼ同一であり,進行は順調である.
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Strategy for Future Research Activity |
ヒトへの導入を目指して,まず実験用動物豚での有効性および安全性を確認する.その方法を以下のように考えている. 実験用豚に全身麻酔を行い気管挿管,人工呼吸管理とする.また,静脈麻酔に加えて筋弛緩薬を用いることで人工呼吸器依存とする.呼吸器の設定はAssist controlモードとして呼吸数は固定し,動脈血液ガスでPCO2値が50mmHgとなるように適宜換気圧を調節する.設定されたタイミングで動脈圧ライン,血液浄化回路脱血部分,膜型人工肺前後,ヘモフィルター前後,血液浄化回路送血部分で血液ガスを測定する.人工肺ガス排出ポートにCO2測定器を装着し,CO2除去量を測定する. Primary endpointは動脈圧ラインから測定した血液ガスにおけるPCO2値を50mmHgとするために必要となるPressure control (cmH2O)値の推移とする.また,①人工呼吸器下のPeak pressure(cmH2O),Plateau pressure(cmH2O),Tidal Volume (ml),Minutes Volume (L/min)の推移, ②二酸化炭素除去量(⊿CO2), ③(必要であれば)炭酸水素ナトリウム水溶液の補充量, ④副作用の有無(腎機能障害,乳酸値上昇等)を測定・観察する.二酸化炭素が有効に除去できることを評価し,また本研究の目的の一つである「肺保護戦略」に適う各種換気測定圧の低下をもたらすことを証明する. この動物実験により,本研究の新しい概念に妥当性・有効性があることを証明し,実臨床における呼吸不全症例への応用に向けてその課題を探る.
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Causes of Carryover |
当初計画していた人工肺等の機器にかかる費用が,予定と比較して順調であったため少なくなった.しかし,その分を実験用動物豚に用いるため,結果的には必要となる. これまでの報告や,豚血を用いたex-vivo実験からはヒトと比較してかなり血液凝固しやすいことが分かっている.すなわち,回路や人工肺が容易に凝固で閉塞する可能性があり,想定よりも多くの回路を要すると考えられる. さらに,豚の麻酔は通常はヒトと同様に吸入麻酔を行う場合が多いが,今回の実験では人工呼吸器からのガスを正確に規定する必要があるため,吸入麻酔ではなく単純静脈麻酔を行う必要がある.過去の報告から,豚の静脈麻酔ではヒトと比べて相当量の麻酔薬を要することが分かっており,麻酔薬の価格自体も高いことからこれに充てる必要があると考えられる.
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