2017 Fiscal Year Research-status Report
16S rRNA遺伝子を用いた人工呼吸器関連肺炎の細菌叢解析
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17K17078
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Research Institution | University of Occupational and Environmental Health, Japan |
Principal Investigator |
尾辻 健 産業医科大学, 大学病院, 修練指導医 (50770244)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 細菌叢解析 / 16S rRNA遺伝子 / 誤嚥性肺炎 |
Outline of Annual Research Achievements |
人工呼吸器関連肺炎(Ventilator associated pneumonia 以下VAP)は、発症頻度、致死率ともに比較的高い疾患の一つである。その起炎菌同定は培養法に依存しているが、嫌気性菌や複数の口腔内細菌が関与していると考えられているため、培養法で起炎菌を同定することは通常困難である。今回の研究は、VAP症例の喀痰、唾液を採取して、16S rRNA遺伝子を用いた網羅的細菌叢解析を行い、起炎菌の同定と、口腔内の細菌叢との関連を明らかにすることを目的として研究を開始した。 VAP症例の唾液は嫌気性菌主体の細菌叢であったが、喀痰は通性菌主体であった。人工呼吸器管理開始直後および抗菌薬投与直前の検体を解析出来た症例において、人工呼吸器管理開始直後は唾液と喀痰の細菌叢は類似していたが、抗菌薬開始直前においては、唾液は著変を認めなかったにもかかわらず喀痰に関しては嫌気性菌が著減しており細菌叢が大きく変化していた。酸素投与など人工呼吸器管理の影響で下気道における嫌気性菌が著減した可能性が考えられた。そのため、ある一点の細菌叢の解析だけでなく、人工呼吸器管理開始直後、抗菌薬開始直前および抗菌薬開始48-72時間後に唾液および喀痰を採取して細菌叢の経時的変化を評価することとした。また、対象をより広義である誤嚥性肺炎とし解析を継続した。 その結果、新たに解析した症例においても、同様の傾向がみられた。また、喀痰においては、抗菌薬投与後にKlebsiella属、Pseudomonas属、Corynebacterium属、Staphylococcus属、Stenotrophomonas属、Escherichia属などの割合が増加していた。 本結果により、より適切な抗菌薬選択に向けた新たな知見が得られる可能性が高く、誤嚥性肺炎症例の生存率改善さらには耐性菌出現の抑制にも寄与できる可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
現在までに22症例、116検体を解析した。おおむね順調に検体採取および解析を進行することが出来ている。これらの検体について主成分分析法を用いて解析した結果、「研究実績の概要」で述べたように、唾液は嫌気性菌を中心とした細菌叢を呈しており経時的に大きな変化は見られていない。一方、喀痰に関しては、人工呼吸器管理直後は嫌気性菌を多数認め唾液に近い細菌叢を呈する結果が得られているが、抗菌薬投与直前に採取した喀痰においては嫌気性菌が著減し通性菌主体の細菌叢に変化したという結果が得られている。この傾向は人工呼吸器管理開始から抗菌薬投与までの時間が3時間以上の症例において特に顕著であり、酸素投与などの人工呼吸器管理に伴い下気道の嫌気性菌が著減した可能性が示唆される結果である。また、喀痰においては、抗菌薬投与後にKlebsiella属、Pseudomonas属、Corynebacterium属、Staphylococcus属、Stenotrophomonas属、Escherichia属などの割合が増加する傾向がみられている。今回の解析では抗菌薬耐性の有無は十分に評価が出来ないが、これらの菌は抗菌薬投与後に割合が顕著に増加しているため抗菌薬に耐性を持っている可能性が高い。人工呼吸器管理を行った誤嚥性肺炎症例において、有意に下気道の嫌気性菌は人工呼吸器管理により著減し、抗菌薬投与後48-72時間の経過で耐性を持つと思われる細菌の割合が増加するという結果が得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
現時点で集積している検体を用いて解析を継続する。また、新しい検体を採取できれば検体数を増やして解析を行う。解析の結果、人工呼吸器管理で下気道の嫌気性菌が著減して抗菌薬投与後に薬剤耐性菌が出現するという結論に至れば、人工呼吸器管理を行う誤嚥性肺炎症例に対しては、嫌気性菌に対する抗菌薬治療が不要であり抗菌薬使用の見直しが必要と考えられる。そのため、次なるステップとして、本研究同様に人工呼吸器管理を行う誤嚥性肺炎症例に対して、嫌気性菌をターゲットとしない抗菌薬選択を行って、実際下気道の細菌叢がどのように変化するかを評価し、症例の治療成績を解析するための介入研究を行う予定である。その結果に基づき、人工呼吸器を用いない誤嚥性肺炎症例において、従来の抗菌薬選択を行った場合と嫌気性菌をカバーしない抗菌薬選択を行った場合の治療成績や耐性菌の出現頻度などを解析する研究を行いたいと考えている。高齢化が進んでいる我が国においては、誤嚥性肺炎症例は特に頻度の高い疾患の一つであり、より適切な抗菌薬選択のエビデンスを構築することが出来れば、症例の治療成績のみならず、昨今世界的に問題となっている耐性菌出現防止にも大いに貢献することができると考えている。
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Causes of Carryover |
物品購入にあたり、126円残ったが、少額であったため使用は困難であった。繰越金は、次年度に試薬を購入する際に使用することを予定している。
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