2017 Fiscal Year Research-status Report
放射線照射による舌の血管・リンパ管内皮損傷と癌細胞存在下での脈管網の再構築
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17K17111
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Research Institution | The Nippon Dental University |
Principal Investigator |
白子 要一 日本歯科大学, 生命歯学部, 助教 (50756377)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 病理学 / 腫瘍 / 扁平上皮癌 / 放射線 / リンパ管 / 創傷治癒 / 同所移植モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、担癌組織に対する放射線照射の影響として、癌胞巣を取り巻く脈管組織、特にリンパ管の損傷と修復機序に注目し、マウス舌へのヒト癌細胞株移植モデルを用いて、X線照射後の癌実質および間質の血管・リンパ管の経時的な構造変化と分子機序を明らかにする。 研究代表者はこれまでにヒト口腔癌細胞株を用いたヌードマウス舌組織への移植モデルを確立し、各種癌細胞株の造腫瘍活性、局所浸潤様式、リンパ節転移能を比較してきた。解析手法として、連続薄切切片への多重免疫染色とデジタル画像処理による癌組織の立体構築を用い、サイトケラチン陽性領域の画像演算処理によって陰性領域(間質)を腫瘍内間質と宿主間質とに分画する形態計測アプローチも考案した。本法による解析で、癌細胞移植後の組織内血管・リンパ管(PECAM-1陽性血管内皮細胞・Lyve-1陽性リンパ管内皮細胞)を抽出し、非移植群との比較において、高分化を示す口腔癌細胞株(KOSC2、HSC2)では癌胞巣内外で血管密度が有意に高まっていること、中分化型で高転移性を示す口腔癌細胞株(OSC19 、OSC20)では胞巣内外のリンパ管密度が有意に高まっていること、特にOSC19におけるリンパ管新生誘導が顕著であることを突き止めた。OSC19移植7日後(2 mm超の腫瘍塊)の舌組織に対するX線の複数回照射(2 Gy/dayを3回)では、大半の癌細胞を死滅させることができるとともに、炎症反応が惹起された間質においてリンパ管内皮は生存、脈管構造が維持されていることを確認できた。この実験条件を基準として、照射量ごと、また照射前後のリンパ管ネットワーク構造の相違点(密度・管径・分岐)、既存リンパ管内皮・腫瘍リンパ管内皮の形質の違いと放射線曝露への応答の関連性を明らかにすることを目指している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では担癌舌組織に対してX線を複数回照射することで照射量の調整を図るため、照射条件ごとにマウス舌に安定して的確な照射を行うことが要件となる。そこで当該年度では、X線照射手順ならびに使用器具の最適化を重点的に行った。確立できた実験手順として、プラスチック製の保定装置でマウス体躯を固定し、舌側縁がみえるまで舌体を露出させた状態で木製の小ピンセットで把持・固定する。鉛製ブロックで体躯を遮蔽し、照射装置内にマウスを保定装置ごと入れ、線源直下に腫瘍を含む舌側縁部を合わせる。この時、直径5 mmの穴を開けた鉛製ブロックを置き、この穴を通して腫瘍部位にのみX線が到達するよう位置を調整し、照射する。照射条件は、管電圧150 kV、管電流20 mA、被射体までの距離350 mm、アルミニウムフィルター1 mmと設定した(実験動物用放射線照射装置は日立メディコ製MBR-1520R-3を使用)。 3次元構造解析を踏まえた組織観察の手順では、パラフィン包埋試料の連続薄切と免疫多重標識を行う際の精度が重要となる。これまでに、免疫標識による血管内皮(PECAM-1)、リンパ管内皮(Lyve-1)、増殖細胞核(Ki-67)の検出とImageJ/Fiji(NIH)による分画・立体構築の最適化を行い、既存の血管・リンパ管の走行および内皮細胞の増殖活性を一定の精度で再現、同時解析できるようになっている。 予備検討を計画していた血管新生の動態に関しては、屠殺前のピモニダゾール腹腔内投与を行うことで低酸素領域を抗ピモニダゾール抗体を用いた免疫染色で検出する実験系を整えることができた。ただし、癌細胞株によっては癌胞巣の大きさによらずピモニダゾールで検出できるレベルの低酸素環境にならない可能性も示唆されたため、活性型血管内皮細胞マーカCD105や低酸素マーカーHIF1αの発現について追加解析を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度からの試料解析を継続するとともに、最適化した照射線量に基づく分割照射試料において組織損傷・修復の差異を検証する。X線照射量と組織損傷に関して、文献的には20 Gy前後の単回照射を受けたマウスでは重度の粘膜炎が惹起される。本研究では段階的な組織障害状況を得るために、10, 15, 20 Gyの高線量単回照射も試みる。また、損傷後の組織修復と癌の再燃・転移との関連性を明らかにする目的で、大半の癌細胞を死滅しうる(わずかな生存癌細胞を残しうる)照射条件を確定し、照射後に腫瘍塊の再形成を待って構造解析を実施する。組織解析では、連続薄切切片の免疫染色に基づいた3次元構造解析を中心に進める。移植癌細胞株ごとの血管・リンパ管構造・計測値(脈管密度・連結性など)を比較分析し、進捗状況によって、別の癌細胞株(KOSC2同様の血管誘導能を示すHSC2など)での検証も行う。また、成体組織の炎症・腫瘍病変で惹起されるリンパ管新生は、病変部に集積したCD11b陽性骨髄由来前駆細胞やマクロファージがVEGFリガンドを産生してリンパ管内皮細胞の誘導に働くと想定されている。これらの新生リンパ管の構造と腫瘍リンパ管内皮細胞の表現型をOSC19癌胞巣での所見と比較することも予定する。 上記の癌細胞移植実験では、異なる形質の癌細胞存在下で宿主間質に生じる組織変化を検証、比較するが、癌微小環境の構造解析においては、血管内皮・リンパ管内皮の局在のみでは組織環境を判定しにくいことも想定される。この場合の多重免疫染色では、筋線維芽細胞(αSMA)やマクロファージ(CD68)、骨髄由来細胞(CD11b)の集簇状況の検出も計画している。
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Research Products
(3 results)