2017 Fiscal Year Research-status Report
マルチオミクス解析による間葉系幹細胞の分化制御メカニズムの探索
Project/Area Number |
17K17219
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Research Institution | Tokyo Women's Medical University |
Principal Investigator |
鬼塚 理 東京女子医科大学, 医学部, 博士研究員 (10779317)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 間葉系幹細胞 / 網羅的遺伝子発現解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
間葉系幹細胞(MSCs)は多分化能を有しており、様々な組織より単離可能である。このような細胞は由来となる組織により特性は異なるが、詳細は未だ明らかにされていない。そこで我々は、部位の異なる骨組織から単離したMSCsを用いて、次世代シーケンサーを用いた網羅的遺伝子発現解析(RNA-seq)を行い、各細胞の遺伝子制御メカニズムに関して調査することとした。 腸骨海綿骨、上顎骨、下顎骨の骨片検体(各n=3)からMSCsを単離し、RNAを抽出した後、RNA-seqを施行した。得られた塩基配列情報を用いて、発現変動解析を行った後、有意な発現変動遺伝子(Differentially expressed genes:DEGs)について詳細に解析した。 腸骨由来MSCs (I-MSCs)と上顎骨由来MSCs (Mx-MSCs)・下顎骨由来MSCs (Md-MSCs)と比較した中で、I-MSCsで著明な発現上昇を認めたDEGsの多くはHOX遺伝子であることがわかった。また、ヒト歯根膜由来MSCs(PDL-MSCs)データとI-MSCsにおけるDEGsを調査した際も、I-MSCsで発現上昇するDEGsの多くはHOX遺伝子であった。さらにデータベースに登録されている他の組織由来のMSCsから得られたRNA-seqデータを用いて再解析したところ、顔面部組織由来のMSCsは全HOX遺伝子の発現が著しく低く、頸部より下の組織由来のMSCsでは全HOX遺伝子の発現が上昇することが分かった。 さらなる調査により顎顔面領域の組織由来MSCsは軟骨分化能が低いことが分かった。このことは、顎顔面領域の骨組織がもともと膜内骨化をたどるようプログラムされていることが要因と考えられ、その性質をMSCsも引き継いでいること示唆される。また、HOX遺伝子が軟骨分化を制御していることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究ではRNA-seqとChIP-seqの二つの視点から、異なる組織由来のMSCsにおける遺伝子発現制御メカニズムを明らかにすることを目的としている。RNA-seについては既に実施済みであるため、その解析は完了しており、さらにデータベースに存在する数多くのMSCsサンプルデータも用いて幅広く解析を実施したため、当初の予定通り進行していると考えられる。ChIP-seqに関しては、ヒストン修飾に関与する抗体(H3K4me1, H3K9me3, H3K9/14ac, K3K27-me3, H3K36me3)を用いて、免疫沈降を実施しサンプルを回収することが必要となるが、サンプルの抽出法の確立に多くの時間を費やしたため、平成29年度内では全サンプルのChIP-seqの実施が完了していない。しかしながら、適した抗体の選定と抽出法の確立は完了しており、全サンプルの回収も実施済みであるため、経過はおおむね良好であるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
回収済みのChIP(クロマチン免疫沈降)サンプルを用いて、ChIP-seqを早期に実施し、RNA-seqサンプルとの比較情報をスーパーコンピューター上で解析する。具体的には、各MSCsのヒストン修飾状態をChIP-seqデータから明確にし、遺伝子の転写が活性、もしくは抑制されているかについてデータの集計を行う。またヒストン修飾により制御されている遺伝子群については、メチル基転移酵素やアセチル基転移酵素などの関与も考慮に入れて、RNA-seqデータをフィードバックし、これらの情報についてもデータ解析を行う。 さらにHOX遺伝子やその他、分化制御にかかわる遺伝子を抽出し、in vitro実験にてその遺伝子の詳細なメカニズムを調査する。
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Causes of Carryover |
前年度は主に解析に必要な備品、およびその他付属品の購入を実施し、予定していたChIP-seqはサンプル抽出法の確立に時間がかかったため、次年度での実施となる。ChIP-seq実施に係る費用が次年度使用額として生じている。
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