2017 Fiscal Year Research-status Report
局所麻酔薬による線維芽細胞での神経成長因子発現増加が創傷治癒過程に及ぼす影響
Project/Area Number |
17K17239
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
松村 朋香 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 講師 (40527066)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 局所麻酔薬 / 線維芽細胞 / 神経成長因子 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、局所麻酔薬の持続投与による非神経細胞、特に線維芽細胞に対する影響を調べることを主な目的としている。今年度はヒト培養線維芽細胞(normal human dermal fibroblast: NHDF)に様々な濃度のリドカインを投与し、投与後の神経成長因子(nerve growth factor: NGF)発現量の変化、細胞増殖能の変化、細胞形態変化および細胞遊走能について経時的に観察した。 これまでの実験では不死化線維芽細胞(TIG-114)を使用していたが、より生体の正常な性質に近い細胞に対する反応を調べるために、今回は有限分裂寿命細胞(NHDF)を使用することに変更した。ヒト培養線維芽細胞に様々な濃度のリドカインを投与し、定量的PCRによってNGF発現の変化を調べたほか、ヒト培養線維芽細胞の細胞増殖能の変化と細胞遊走能について調査した。いずれの実験においても高濃度リドカインを投与した群では、過去の報告および我々がTIG-114を用いて行った実験結果と同様に、投与後の線維芽細胞の形態変化が見られ、細胞増殖抑制が認められた。低濃度リドカイン投与した群では細胞形態の細胞増殖能の低下および細胞遊走能は起こらなかった。NGF発現量に関してもこれまでのところNHDF細胞では増加傾向は見られるものの、有意な差は得られていない。 局所麻酔薬は過去の研究により細胞増殖抑制やアポトーシスの誘導などが報告されているが、実際の臨床で局所麻酔薬投与による創傷治癒の遅延などはほとんど見られない。局所麻酔薬の持つ細胞毒性を代償する機構を解明し、術後局所麻酔薬投与による、より良い鎮痛と良好な創傷治癒を得ることが本研究の目標である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)にリドカインを投与することにより、線維芽細胞に起きる変化を調査することが本研究の目的である。 1.ヒト皮膚線維芽細胞に様々な濃度のリドカインを投与し、形態変化を経時的に観察した。高濃度リドカインは投与後3日目で線維芽細胞の萎縮と細胞数の減少が見られたのに対して低濃度リドカインでは投与後3日目において形態の変化は観察されなかった。 2.ヒト皮膚線維芽細胞にリドカインを投与し、3日後の神経成長因子(nerve growth factor: NGF)の発現量を定量的PCRを用いて調べた。投与3日後の高濃度リドカイン投与群でのNGF発現は、リドカイン非投与群に比べて低下した。低濃度リドカインを投与した群では増加傾向があるものの、有意差はなかった。以前、ヒト皮膚線維芽細胞(TIG-114)を使用した実験では低濃度リドカインの投与により線維芽細胞におけるNGFの発現は増加したが、NHDFを使用した今回の実験では低濃度リドカインによるNGFの発現は不安定であった。 これまでの実験では不死化線維芽細胞(TIG-114)を使用していたが、より生体の正常な性質に近い細胞に対する反応を調べるために、今回は有限分裂寿命細胞(NHDF)を使用することに変更したが、TIG-114で見られたNGF発現の変化が安定して観察されず、現在、その原因を究明するためにリドカインの投与条件および細胞数の調整などを行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
現在のところ、低濃度リドカイン投与後のヒト皮膚線維芽細胞でのNGF発現量について、TIG-114細胞からNHDF細胞に変更後、安定した結果が得られていない。今後の研究を進めるにあたって、この原因を解明するために細胞の培養条件等の変更を試みる予定である。高濃度リドカイン投与群ではNHDFにおいても同じようにNGF mRNA発現の減少が見られたが、これがどのようなメカニズムによって起こるのか、特に局所麻酔薬投与によるアポトーシスの誘導との関係性を調べる予定である。 また、研究計画にもあるように、他の局所麻酔薬(プリロカイン・メピバカイン・ジブカイン・ロピバカイン等)を投与した場合の線維芽細胞における反応も、これまでのリドカインで行った実験と同様にNGF mRNA発現量や細胞増殖能、また細胞遊走について局所麻酔薬投与群と非投与群について比較し、変化があった場合には、そのメカニズムを調べていく予定である。 創傷治癒にはNGFだけでなく様々なサイトカインや成長因子などの物質が関わっていることが知られている。また、瘢痕形成など、患者にとって有害な治癒過程も線維芽細胞と密接な関係があるとされている。 本研究は局所麻酔薬と創傷治癒との関係を解明し、より良い術後管理を達成することを目的として行っている。今後の研究を進めるにあたって、当初から予定している実験だけでなく、創傷治癒と局所麻酔薬の関係を広く考えていくためにも、これまでの実験結果を踏まえて細かな点で計画を練り直し、実験を追加していく必要があると考える。
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Causes of Carryover |
現時点での研究の進行状況としては、当初の実験計画に比べて、やや遅れている。本来であればNGFタンパク発現について調べていく予定であり、そのための器材や試薬などを調達するはずであったが、さまざまな観点から検討をしたうえで使用する培養ヒト線維芽細胞を変更した。その結果、リドカイン投与によるNGF mRNA発現量が安定せず、結果としてRNA抽出や定量的PCRなど、これまで使用してきた試薬で研究を進めることが可能であったため、次年度使用額が生じてしまった。 次年度は、さらに条件を変えてリドカイン投与によるNGF mRNA発現量を測定する実験を進めていき、問題がある場合は使用する細胞の変更も考慮に入れている。また、リドカインの他に、他の局所麻酔薬とヒト皮膚線維芽細胞とのかかわりを調べる実験を開始することとしている。 また、創傷治癒に関わる他の因子にも着目し、すでに実験計画を立てている。その実験を並行して行うため、次年度は当初の計画以上の使用額が見込まれている。
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