2017 Fiscal Year Research-status Report
性差による口腔癌発症過程の違いとそれに基づく癌化予測についての研究
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17K17276
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Research Institution | Oita University |
Principal Investigator |
阿部 史佳 大分大学, 医学部, 助教 (00718421)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 口腔扁平上皮癌 / 口腔潜在的悪性疾患 / 性差 / 性ホルモン / 口腔扁平苔癬 / 口腔白板症 |
Outline of Annual Research Achievements |
性差による口腔扁平上皮癌(OSCC)の発症・病態の違いをみるため、まず40歳未満の若年OSCC患者を対象に、生活歴、ヒトパピローマウイルス(HPV)感染率、性ホルモン受容体の発現に差があるか否かについて検索した。対象は当科で治療した40歳未満のOSCC患者は26人(男性15人、女性11人)である。当26人の原発巣は舌23例、下顎歯肉、口底、硬口蓋が1例で、病期はStage 1/2が14例、Stage 3/4が12例であった。喫煙習慣は男性患者77%、女性患者18%にみられた。HPV感染は抗p16抗体(F-12、Santa Cruz社または2D9A12、abcam社)を用い、生検組織パラフィン切片の免疫染色により検索し、全体の感染率は57.7%(男性53.3%、女性63.6%)の結果であった。次にエストロゲン受容体α(ERα)とエストロゲン受容体β(ERβ)の発現を免疫染色で検索した。染色には抗ERα抗体C-20、抗ERβ抗体B-3を用いた(ともにSanta Cruz社)。ERαとERβの発現は、口腔がん周囲の健常口腔粘膜上皮ではERαは基底層細胞の細胞質または核に、またERβは基底層細胞の核に弱い陽性所見を示した。上皮性異形成~扁平上皮癌の部分では両者の発現が亢進し、ERαは癌細胞の細胞質と一部の細胞核に、ERβは癌細胞の細胞核に陽性を示した。これらの発現パターンは40歳未満患者と男女間では明らかな違いは捉えらなかった。さらに40歳以上のOSCC患者14人(男性5人、女性9人)について同様の染色を行ったところ、40歳未満患者に比べてOSCCのERα発現がやや強い傾向であった。 現時点で男女間での口腔発癌に明確な違いは見出していないが、本研究で計画した遺伝子変異の検索により遺伝学的背景に解析基づいて解析を進める予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画では、平成29年度に口腔癌の代表的先駆病変である口腔白板症を対象に、患者の臨床背景、HPV感染、遺伝子変異の状態、性ホルモン受容体の発現を検索する予定であった。しかし最近行った当科の臨床研究から、女性の多発口腔癌患者に口腔扁平苔癬の合併が多い傾向が明らかとなったため、平成30年度以降に予定していた口腔扁平上皮癌に対する検討を先行した。 平成29年度に計画した口腔白板症についての検討については、臨床データの抽出を並行して進めており、口腔扁平上皮癌症例の解析と同時進行で平成30年度に実施する。 PCR法によるHPV感染の検索、LOH解析は、まだ本実験に至っていないが、早急に開始する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
口腔白板症について当科の治療症例を対象に臨床所見、HPV感染、LOH解析、性ホルモン受容体の発現を検索し、年齢(40歳未満vs60歳以上)、性差との関連を検討する。次に当科の口腔扁平上皮癌(OSCC)を、ⅰ)口腔白板症を随伴する単発性OSCC、ⅱ)口腔白板症を随伴しない(かつ口腔白板症が先行しない)単発性OSCC、ⅲ)口腔白板症を随伴する多発性OSCC、ⅳ)口腔白板症を随伴しない(かつ口腔白板症が先行しない)多発性OSCCの4つに分類し、臨床所見、HPV感染、LOH解析、性ホルモン受容体発現との関連性を検討する。とくに年齢、性差との関連から、口腔発癌における性差の関連を考察する。以上は研究計画に設定した事項であり、今後進めていく。 さらに最近の当科の臨床研究で、女性の口腔多発癌患者に口腔扁平苔癬の合併が多いことが示され、女性の口腔発癌に扁平苔癬が関わっている可能性が示唆された。そこで上記の研究に加えて、口腔扁平苔癬と口腔癌との関連をHPV感染、LOH解析、性ホルモン受容体発現の観点から検討したいと考えている。 これらの結果をもとに、性差による口腔癌発症モデルを提案し、口腔潜在的悪性疾患の癌化予測についてのアルゴリズム構築、男女別年齢層別の口腔癌予防法、経過観察方法を考案する。
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