2018 Fiscal Year Research-status Report
性差による口腔癌発症過程の違いとそれに基づく癌化予測についての研究
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17K17276
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Research Institution | Oita University |
Principal Investigator |
阿部 史佳 大分大学, 医学部, 助教 (00718421)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 口腔扁平上皮癌 / 口腔潜在的悪性疾患 / 性差 / 口腔扁平苔癬 / 口腔白板症 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は当科の口腔扁平上皮癌(OSCC)患者を対象にヒトパピローマウイルス感染率と性ホルモン発現受容体(エストロゲン受容体αとエストロゲン受容体β)を検索したが、ヒトパピローマウイルス感染と性ホルモン発現受容体の発現に性差による有意な差を捉えることはできなかった。そこで平成30年度は口腔多発癌に対象をしぼって検索を勧めた。まず2つ以上のOSCCを生じた患者のうち口腔扁平苔癬(OLP)を併発した症例について臨床データのそろっている患者を過去30年間から抽出したところ、11患者が集まった。すべて異時性多発癌症例で、4例は第2癌まで、5例が第3癌まで、2例は第5癌までを認めた。性別は女性9例、男性2例と女性に多く、OSCCの一般的な発癌要因である喫煙または飲酒習慣を有するものは男女各1例、計2例のみであった。この結果から口腔多発癌にOLPが関与することが示唆された。さらに2008年から2017年の10年間の当科患者を対象に、口腔多発癌症例における口腔潜在的悪性疾患(OPMD)の有無を調べた。この間の口腔多発癌は15例で、同時性多発癌が3例(第2癌まで2例、第3癌まで1例)、異時性多発癌が12例(第2癌まで9例、第3癌まで3例)で、性別は女性11例、男性4例と女性に多かった。OPMDは15例中11例(73.3%)に認め、OLPが7例(46.7%)、口腔白板症が3例、慢性カンジダ症が1例であった。OLP11例のうち9例は女性であり、OLPが女性の口腔多発癌の前駆疾患であることが示唆された。 以上の2つの臨床的検討から、女性のOSCC多発症例のOLPと男性OSCC単発症例の白板症を比較することにより性差による口腔発癌の違いを捉えることができるものと考える。現在、本研究計画で予定している遺伝子解析を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
口腔扁平上皮癌(OSCC)の発癌における性差の違いを捉えるため、まずOSCC単発症例を対象に臨床的検索をすすめたが明確な性差を捉えることができなかった。本研究計画が遅れている理由はこのためです。しかしOSCC多発症例(口腔多発癌症例)に限定して検討したところ、前述の所見が得られた。OLPは口腔潜在的悪性疾患(OPMD)のひとつとしてOSCCの前駆疾患とされているが、OLPと口腔多発癌の関係についての報告は少なく、かかる所見は新規のものである。本年度はこのデータをベースとして、研究を急速に進める予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
口腔白板症について当科の治療症例を対象に臨床所見、HPV感染、LOH解析、性ホルモン受容体の発現を検索し、年齢(40歳未満vs60歳以上)、性差との関連を検討する。次に当科の口腔扁平上皮癌(OSCC)を、ⅰ)口腔白板症を随伴する単発性OSCC、ⅱ)口腔白板症を随伴しない(かつ口腔白板症が先行しない)単発性OSCC、ⅲ)口腔白板症を随伴する多発性OSCC、ⅳ)口腔白板症を随伴しない(かつ口腔白板症が先行しない)多発性OSCCの4つに分類し、臨床所見、HPV感染、LOH解析、性ホルモン受容体発現との関連性を検討する。とくに年齢、性差との関連から、口腔発癌における性差の関連を考察する。以上は研究計画に設定した事項であり、今後進めていく。 さらに最近の当科の臨床研究で、口腔多発癌は女性に多く、また白板症をはじめとするOPMDの合併が多いことが示され、女性の口腔発癌にOPMDが関わっている可能性が示唆された。そこで上記の研究に加えて、OPMDと口腔癌との関連をHPV感染、LOH解析、性ホルモン受容体発現の観点から検討したいと考えている。 これらの結果をもとに、性差による口腔癌発症モデルを提案し、口腔潜在的悪性疾患の癌化予測についてのアルゴリズム構築、男女別年齢層別の口腔癌予防法、経過観察方法を考案する。
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