2017 Fiscal Year Research-status Report
RANKL結合ペプチドによる骨造成法の口蓋裂治療応用における基礎的研究基盤の構築
Project/Area Number |
17K17314
|
Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
上原 智己 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 助教 (50783130)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | ペプチド / RANKL / 骨形成促進 / 注射 / メカニカルストレス / マウス / 骨形態計測 |
Outline of Annual Research Achievements |
口唇口蓋裂治療では、低侵襲に顎裂部の骨欠損を補填し、患児への負担を軽減する治療法が必要とされている。近年我々は、BMP-2とRANKL結合ペプチドの併用による、新規骨造成法を開発した。この技術を応用し、注射によって骨を造成する外科的侵襲の少ない治療法の基礎的研究基盤の確立を目指している。実際の口蓋裂治療への臨床応用においては、新生した骨の長期的な維持の可否を明らかにする必要があるが、これまでにRANKL結合ペプチドにより新生された骨が長期間維持されるか否かは検討されておらず、骨を新生しても機能させなければ吸収されることが予想される。そこで本研究では、新生骨はメカニカルストレスを負荷することにより、長期間維持されるかどうか否かを検討する。 当初はマウスの上顎の切歯と第一臼歯の間の歯隙に骨を新生させ、矯正力により第一臼歯をその新生骨部に誘導するという、「矯正モデル」を用いた新生骨の経時的変化を観察する計画を立てた。しかし、新生骨の位置や大きさを正確にコントロールすることが困難であったため、矯正力により得られる150µm程度の歯牙の移動量では、新生骨部に歯を誘導し、矯正力を負荷させるのに不十分であった。 そのため、新生骨を機能させる別のモデルを確立する必要があった。そこで、マウス臼歯に糸を結紮することで歯周炎を引き起こし、得られた吸収窩に新生骨を造成する「歯槽骨吸収モデル」を立ち上げたが、新生骨が形成されるまでの28日間の間に、吸収窩が自然治癒してしまい良好な結果は得られなかった。 現在は、マウス下顎第一臼歯の近心部に新生骨を造成し、当該部にメカニカルストレスをかけるか否かで新生骨の長期的経過に差が生じるかどうかを検討している。メカニカルストレスを欠如させる方法には、対顎の臼歯を抜歯し、非咬合状態にする方法を用いている。今後、本モデルを活用し、新生骨の機能を検討する計画を立てている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
矯正モデルでは、マウス歯牙への矯正力の負荷により得られる歯の移動量が150µm程度であったことで、新生骨部へ正確に歯を誘導することが困難であった。同じ形状の新生骨を造成しなければ新生骨部へ歯が到達できないという問題が考えられ、注射部位や薬剤の量について検討したが、個体によってできる骨の形状は異なっていた。 また、その後に取り掛かった歯槽骨吸収モデルでは、マウスの上顎第二臼歯の歯頸部に糸を結紮し、歯周炎を引き起こすことにより吸収窩をつくり、当部に新生骨を造成することを試みた。2週間の結紮で十分な吸収窩が得られたため、その後の治癒過程について解析したところ、結紮除去後2週間の時点で吸収窩の自然治癒が生じていることが確認された。新生骨が形成されるまでは約28日を要するため、自然治癒によって生じた骨と、注射によってできた新生骨かどうかの判断が難しいことが推察された。 現在はマウスの下顎第一臼歯の近心部歯槽堤に新生骨を造成し、その新生骨部に加わるメカニカルストレスの有無により新生骨の長期的予後に差が生じるか否かを検討している。メカニカルストレスを欠如させるためには対顎の臼歯の抜歯を行う。臼歯の抜歯に関しては、歯根破折や歯槽骨骨折を起こさないように行うための手技の取得に時間を要した。 さらに、薬剤を投与するための注射法に関しても多くの試行、考案が必要であった。本研究における注射では、薬剤の投与量を正確に計測するためにハミルトンシリンジを用いている。だが、ハミルトンシリンジでは本実験で用いるゲル状の物質を吸引することができなかったため、粘調度の高い物質でも吸引することができるピペットを新たに使用し、ハミルトンシリンジ後部より薬剤を注入後注射することとした。このような新たな注射法の確立にも時間を要した。 新たなモデル作りと注射法の確立を手掛けたため、進捗状況はやや遅れが生じているとした。
|
Strategy for Future Research Activity |
新たに立ち上げたモデルを用いて実験を進める。マウス下顎第一臼歯近心歯槽堤に従来通りの薬剤を注射することにより新生骨を造成し、新生骨部に負荷されるメカニカルストレスの有無が新生骨の長期経過に影響を及ぼすか否かを検討する。新生骨部へのメカニカルストレスをなくす方法として、対顎臼歯の抜歯を行い、咬合を離開させる。メカニカルストレスの減少を定量的に示すために、マウス歯槽骨の有限要素法による解析も検討していく。 現在、メカニカルストレスがかかる群においても注射28日後に形成された新生骨部には多くのTRAP陽性細胞が認められ、吸収傾向にあることが明らかとなった。今後は、新生骨造成後に対顎の抜歯の有無による2群に分け、メカニカルストレスの有無による骨吸収の変化及び長期的維持に差が生じるか否かをX線学的、組織学的に比較検討する。 問題点として、新生骨の形態をコントールするのが困難という点が挙げられる。当問題に関しては、粘膜下で薬剤が貯留するような注射部位や薬液の量の工夫、担体に含まれるゼラチン粒子の性状を変更することにより対応していく。
|
Causes of Carryover |
当初の研究計画よりも遅れが生じたことや、解析に用いる物品の購入が次年度持越しになったため、繰り越し金が生じた。今年度に使用する凍結切片作製用の粘着フィルム、タングステンブレードといった主に新生骨の解析に用いる消耗品や、研究成果公表のための学会発表費用、旅費に充てる予定である。
|