2017 Fiscal Year Research-status Report
歯の移動が情動や自律神経系に及す影響は、脳内でフィードバックコントロールされるか
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17K17321
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
大原 春香 大阪大学, 歯学部附属病院, 医員 (40754726)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 神経科学 / 情動 / feedback機構 / 歯科矯正 / 歯牙移動 |
Outline of Annual Research Achievements |
歯科矯正治療で用いる歯牙移動によって生ずる情動と自律神経系への悪影響の発症機構に関わる脳神経機構の解明を目的とし、ラットを用いたin vivo 実験を、大阪大学歯学研究科動物実験指針に従って開始した。以下の研究成果を得た。 (1)これまでの我々の研究で、無意識下で発現する歯根膜感覚が視床の後腹側内側核の尾腹内側部(VPMcvm)に伝達されことは明らかになっている。そこで、VPMcvmを電気生理学的に同定し、その部位に順行性神経トレーサーを微量注入した。標識神経終末が二次体性感覚野に接してその吻腹側に位置する顆粒性島皮質(GI)内の背側の小部位(dGIrvs2)に認められた。この結果は、歯根膜感覚が無意識下でdGIrvs2に伝達されることを意味する。dGIrvs2を含む島皮質は情動や自律神経系に関与する部位であることから、dGIrvs2に伝達された歯根膜感覚情報が、歯牙移動によって生ずる情動と自律神経系への悪影響の発症に大きく関与する可能性を示すことができたと考えている。 (2)情動への関与の一端として、皮膚感覚の大脳皮質体性感覚野への伝達機構でも認められている、感覚の上行路に対する大脳皮質からのfeedback機構が、dGIrvs2に伝達される歯根膜感覚にも存在するかどうかを解明した。dGIrvs2を歯根膜からの入力を記録して同定し、その部位に順行性神経トレーサーを微量注入した。標識神経終末が、歯根膜感覚がdGIrvs2に至る上行性伝達経路の中継部位である視床VPMcvmと橋の吻背側部に位置する三叉神経上核に認められた。この結果は、無意識下でdGIrvs2に伝達された歯根膜感覚が、その上行性の情報の量や質を自己調整していることを意味する。歯牙移動によって生ずる情動と自律神経系への悪影響が経時的に変化(軽減または増悪)することに関わる脳神経機構を示すことができたと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画に記した3個の実験のうち、1個目が終了し、2個目の半分が終了した。つまり、計画の丁度半分が終了しており、計画通りに順調に実験は遂行出来ていると判断している。順調に遂行している理由は、(1)本研究の申請に当たって事前に作成した研究実施計画が、科学的にも充分に考察されており妥当なものであったこと、(2)研究遂行に必要な時間、労力、技術、使用する器機などに関する事前の考察と検討も妥当なものであったことなどが考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画に記した3個の実験のうち、1個目と2個目の半分が29年度に終了しているので、本年度は2個目の残り半分と3個目の実験をまとめて完遂するつもりである。既に実験を開始しており、この実験は、無意識下でdGIrvs2に伝達された歯根膜感覚が、さらに高次脳内のどの部位に伝達され、統合されて、情動や自律神経系に関与するのかを調べるものである。具体的には、無意識下で賦活される歯根膜感覚の入力を記録して顆粒性島皮質に位置するdGIrvs2を同定し、その部位に順行性神経トレーサーであるBDA を電気泳動にて微量注入する。注入の5-7日後に、ラットを灌流固定し、 脳を摘出する。脳の連続冠状断切片を作成する。ABC法とDAB 法にてBDA 標識を可視化する。大脳皮質内と皮質下の脳部位、特に、運動のプログラミングに関与する大脳基底核群に加え、情動や自律神経機構に関わる事が知られている大脳辺縁系(帯状回など)や扁桃体への投射の様態を明らかにする。情動や自律神経機構に関わるに関わる脳部位への投射とその様態が明らかになれば、その投射が、歯科矯正治療で用いる歯牙移動によって生ずる情動と自律神経系への悪影響の発症機構に関わっている可能性が示される事になる。 本申請研究の最終年であるので、これらの研究に邁進し、一刻も早くに完遂させたのち、全結果を総括しなければならない。国内外の学会で発表し、英語論文にとりまとめ、公表するつもりである。
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Causes of Carryover |
平成29年度分として当初に配分された額の全ては使用せずに、その一部を30年度配分金に加えて、30年度に使用するように変更した。当初の配分では、30年分の配分が、29年度分に比べて少ないため、本研究を計画通りに完遂させるための変更である。研究内容、計画等は変更していない。
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Research Products
(1 results)