2018 Fiscal Year Research-status Report
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17K17344
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Research Institution | Fukuoka Dental College |
Principal Investigator |
中村 雅子 福岡歯科大学, 口腔歯学部, 助教 (70781102)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | シクロフォスファミド / ヘルトヴィッヒ上皮鞘細胞 / 上皮間葉形質転換(EMT) / インスリン様成長因子(IGF-1) / インスリン様成長因子レセプター(IGF-1R) |
Outline of Annual Research Achievements |
1)in vitroにおいては、歯根形成に関与するHERS細胞へのシクロスフォスファミド(CPA)の影響と2)In vivoにおいては、マウスへのCPA投与による臼歯の歯根形成状態を検索した。 具体的には、1)CPA刺激によるHERS細胞の各種マーカーのwestern blotting (WB)および細胞免疫染色(ICC)による発現の検索を行った。上皮系マーカー(CK14およびE-cadherin)および増殖活性因子であるKi-67、歯根形成に重要であるインスリン様成長因子レセプター(IGF-1R)の陽性率は、CPA濃度の増加に伴い、低下する傾向がWB法およびICC法で明らかとなった。それに対して、間葉系マーカーであるvimentinおよびN-cadherinは、WB法およびICC法ともに、非刺激群では陽性所見は認めなかったが、CPA低濃度刺激群において、間葉系マーカーの陽性率が増加した。 2)生後3、6、9日齢マウスにCPAを腹腔内投与し、出生28日齢に歯の形成状態を組織学的に確認した。その結果、CPA投与マウスの下顎第1大臼歯の歯根形成不全が認められ、免疫組織化学(IHC) においては、CPA投与マウスの歯根膜組織では、非投与群と比較して上皮系マーカーが減少していることが確認された。間葉系マーカーは低濃度で発現の上昇、高濃度で発現の減少がみられた。IGF-1RはCPA投与により減少が顕著であった。 本実験において、CPA投与はHERSの上皮系マーカー、IGF-1Rの発現低下を招くことが明らかになった。この結果は、抗がん剤投与による歯根形成異常にIGF-1/IGF-1Rシグナルの障害が関与していることが示唆され、また、CPA刺激で間葉系マーカーの上昇がみられたことから、抗がん剤刺激は濃度により、HERSの上皮間葉形質転換(EMT)を促進する作用を持つ可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
In vitroにおけるHERS細胞へのCPA刺激の影響に関しての結果は、ほぼ予定通りに進んでいる。しかしながら、in vivoでのデータ解析が、当初の予定よりも若干遅れている。とくに、投与群での根尖部組織における免疫組織化学的検索によるEMTの可能性を裏付けるデータが不足している。その理由として、マウスモデルはCPA投与により歯根の形成に障害を与え、歯の萌出障害あるいは形成障害を観察することを目的とした。しかしながら、抗がん剤投与によるマウスの死亡や刺入点からの抗がん剤の漏出といった手技の問題等によるモデル数の不足が一つの原因であった。現在、モデルの作製法は安定してきたので、モデル数は充実してきている。次に、免疫組織化学的検索法での問題が生じた。すなわち、脱会標本による免疫染色において、一部の上皮系あるいは間葉系マーカーの染色性に再現性がみられず、免疫組織化学的にEMTの証明に至っていない。この点に関しては、固定法、及び染色賦活法、非脱灰硬組織凍結切片作製法などの工夫を行なっている。これらの点の問題点を解決して、遅れを取り戻す予定にしている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの培養細胞実験および動物モデルを用いた解析から、抗がん剤投与により歯根形成に直接関与する上皮系細胞であるHERS細胞は、上皮系形質を間葉系形質に変換(EMT)する可能性がWB法およびICC法による関連タンパクの発現推移から推測されている。このEMT現象は、抗がん剤刺激に対する歯の形成過程における適応現象である可能性が考えられる。そこで、今後は、CPA刺激に対するHERS細胞におけるEMT誘導機序の解明を行う。具体的には、上皮系マーカー発現の抑制機序とそれに関連した間葉系マーカー発現の亢進機序に関与する遺伝子を明らかにする。in vitro実験において明らかにされたHERS細胞の抗がん剤刺激で誘導されるEMT関連遺伝子の発現を、抗がん剤投与動物モデルの歯根形成期で免疫組織化学的およびin situ hybridization法により検討する。これらの発現結果から、動物モデルにおける歯根形成の抑制メカニズムを明らかにする予定である。さらに、in vitro実験において間葉系幹細胞(MSC)との共培養システムを確立して、CPA刺激に対するEMT機序へのMSCの関与を明らかにする。また、MSCの関与による遺伝子の発現変化を明らかにすることにより、MSCを用いたHERS細胞の抗がん剤での傷害を抑制するメカニズムを組み立てたいと考えている。
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Causes of Carryover |
In vivo実験において、マウス購入費、飼育費として予算を確保していたが、前年度よりマウスのモデル作製が順調に至ったため、H29年度よりもH30年度は支出が少なくなった。その分を次年度へと移行させた。
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Research Products
(3 results)