2018 Fiscal Year Research-status Report
Lithic raw material utilization of the first migrants in middle Tanana River area, Alaska
Project/Area Number |
17K17560
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
平澤 悠 北海道大学, アイヌ・先住民研究センター, 博士研究員 (10794703)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | アラスカ考古学 / 北米考古学 / 石器石材 / 細石刃 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、研究課題の2年目にあたる。現地調査は、昨年度からの継続調査として内陸アラスカにおける石器石材分布調査を範囲を拡大して行った。出土考古学資料の調査は、同地域で比較的多くの資料が発見されたブロークンマンモス遺跡の資料調査を北方博物館(アラスカ大学フェアバンクス校)にて実施した。 石材分布調査範囲の選定は、更新世における氷河の進退が過去の石器石材獲得に影響を及ぼした可能性も考慮して行われた。その結果本年度の調査は、リチャードソン・ハイウェイ沿いでアクセスが比較的容易な氾濫原と、氷河の運搬した礫で構成されるターミナルモレーンを中心に実施された。調査地点は、昨年度から累計して30箇所となった。これらの地点では、目視による状況調査、石器石材として利用可能な礫の収集、ランダムサンプリングを行った。これらの地点から収集された試料のより詳細な岩石学的な分析は、最終年度に行う予定であるが、目視による分布状況では、タナナ河中流域の北岸地域とデルタ側東岸地域の地点には石器に利用できる珪質かつ潜晶質の石材はほぼ確認されなかった。興味深いのは、タナナ河の南岸に流れ込むデルタ・クリークとリトル・デルタ川に比較的多くの多様な色調・石質を擁するチャートの分布が認められた点である。この分布状況は、今まで現地の研究者らにもよく知られていなかった。対岸で発見された完新世の遺跡では、同様のチャートが石器製作に多く利用されていることから、タナナ河を越えた石材資源獲得が行われていたことが推察される。 遺跡出土資料の石材利用状況と技術基盤を把握すべく、ブロークンマンモス遺跡の細石刃核と彫器の実測・計測・石材同定を行った。中期完新世ごろに比定される同資料群は、昨年資料調査をおこなったスワンポイント遺跡の完新世資料群と類似するものの、技術・石材共に若干の差もみられた。最終年度にこれらの結果を比較検討する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現地調査による試料収集は、昨年度よりも広い範囲において実施することができた。くわえて、昨年度までは不明であったチャートの分布とそれを供給する河川が特定できたことは、非常に大きな成果といえる。なぜなら、完新世の遺跡においてチャート製石器の利用が多い同地域では、チャートの利用傾向やチャート石材の獲得行動を明らかにすることによって、この集団の資源利用戦略をより具体的に知ることができるからである。 遺跡出土資料の調査では、ブロークンマンモス遺跡の細石刃核と彫器の資料化を行った。これらは、アラスカの先史時代において通時的にみられる器種であるため特に重要である。一方でこれらの資料はこれまで現地発掘調査者による概要の報告のみにとどまっていたため、同地域の研究において詳細に検討された事例が少ない。当初の計画で検討していたミード遺跡、ヒーリーレイク遺跡資料は、残念ながら先方の資料整理事業の関係で調査が叶わなかったが、今年度までに収集した資料群のデータを最終年度の研究成果発表に活用し、同地域のより具体的な石器石材利用と技術運用に言及する。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの進捗状況にも述べたように、本研究課題の2つの柱である石材分布調査、出土石器資料調査において一定の成果が得られている。最終年度は、これらの異なる方法で収集されたデータの分析と統合を行い、先行研究で発表されてきた仮説との整合性の検証を行いたい。 石材分布調査で得られた岩石試料については、薄片スライドの製作とそれらの岩石学的同定も行う予定である。 本研究の成果は、最終年度に学会・論文発表の形式で公表していく予定である。今年度までの成果概要は、現地研究協力者であるC.E. Holmes博士(アラスカ大学客員教授)が企画・編集を行っているスワンポイント遺跡発掘成果報告書に英文で掲載される。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた主な理由は、現地調査において収集した試料の数量が調査以前に見積もっていたそれより上回ったため、薄片スライド製作および岩石学的同定依頼にかかる費用が大幅に増加したことに起因する。この増加は、計画立案時には想定していなかった結果である。これを受けて、今年度使用予定であった旅費およびその他の費目の予算を最終年度の試料加工・分析費用に充て、当初の研究計画に記載した分析・研究を実施することを優先し、使用計画を変更した。 翌年度分として請求した助成金は、上述した理由から岩石学的な分析を遂行すべく、試料の薄片スライドおよびその岩石学的同定に充て、最終年度の助成金と共に使用する予定である。
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