2017 Fiscal Year Research-status Report
一分子蛍光測定によるタンパク質折り畳み遷移経路の追跡
Project/Area Number |
17K17608
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
小井川 浩之 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (40536778)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | タンパク質 / フォールディング / 遷移経路 / 一分子蛍光測定 |
Outline of Annual Research Achievements |
一分子蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)測定によりタンパク質の折り畳み構造転移の際の遷移経路を追跡することを目指している。我々がこれまで開発してきたライン共焦点光学系とマイクロ流路セルを組み合わせた装置では、100マイクロ秒程度の時間分解能で一分子のFRET効率の時系列を取得できるが、この装置の時間分解能では、遷移経路追跡を行うには不十分であった。そこで本年度は、装置の改良と性能評価を主に行った。 まず、検出器をこれまでのEM-CCDカメラからハイブリッド光検出器(HPD)に変更した。HPDに入射する光子数をリアルタイムに記録することで、劇的な時間分解能改善が可能である。しかし、検出器の変更によって結果的に背景光の影響が大きくなってしまった。そこで、一分子からの蛍光の検出を阻害せずに背景光を除去することができる最適な検出スリット幅を実験によって調べ、10 μmと決定した。 また、高頻度で検出器に到達する光子をもれなく数え上げるためには、高速で光子計数を行うカウンターが不可欠である。そこで、安価な汎用カウンター、時間相関一光子カウンター、800 MHz光子カウンターの三種類の光子計数システム用意し、HPDからの信号をカウントし評価した。800 MHz光子カウンターだけが、10000カウント/ms以上の光子計数においても線形性が保たれており、HPDとともにこのカウンターを用いれば、十分高速な光子計数が可能であることが分かった。 新装置の性能評価のために二重蛍光標識した分子モーターF1-ATPase一分子の回転に伴う構造変化の追跡を試みた。その結果、10マイクロ秒時間分解能で10ミリ秒程度の長さの一分子FRET効率時系列が得ることに成功し、それらの時系列はATP存在下でのみ有意な変化を示し、新装置が十分な性能を持つことを確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度で行うことを予定していた高時間分解一分子蛍光測定装置の開発と性能評価については、ほぼ計画通りに進展した。開発した装置が設計通りの時間分解能と感度を有していることも確認できた。この装置について論文発表も行うことができた。 装置の評価実験の結果、変性剤が含まれた試料溶液をマイクロ流路セルに低流速で導入し、タンパク質の一分子蛍光測定を行うと、試料分子がマイクロ流路表面に非特異吸着し、測定困難な場合があることが分かった。しかし、この問題はマイクロ流路の形状変更と、対物レンズの変更によって対処できると考えている。 以上の理由から、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
装置の開発はほぼ計画通りに進んでいるため、2018年度はユビキチンなどのタンパク質に対して一分子蛍光共鳴エネルギー移動測定を行い、変性剤溶液中の平衡折り畳み変性構造転移を追跡する。より長い時間一分子を追跡できるようにするため、引き続き装置の改良、特にマイクロ流路などの試料送液系の改良は継続して行い、既存の分子動力学計算の結果と比較できるような高時間分解能データの取得を目指す。
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Causes of Carryover |
本年度は装置開発のための光学部品とマイクロ流路の購入費用を支出したが、マイクロ流路の実験中の破損が少なかったため消耗品費をおさえることができた。また、本年度は海外での成果報告や、研究打ち合わせを行わなかったため、旅費の支出がなかった。 次年度に、マイクロ流路やデータ解析用のワークステーションの購入と成果発表のための旅費として使用する計画である。
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