2017 Fiscal Year Research-status Report
漢字パターン認知に着目した書字エラーの発生メカニズムに関する認知モデルの提案
Project/Area Number |
17K17616
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Research Institution | Fukushima University |
Principal Investigator |
高橋 純一 福島大学, 人間発達文化学類, 准教授 (10723538)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | パターン認知 / 複雑さ / 同等集合サイズ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目的は,読み書き障害児が示す漢字の書字エラーに関して,発生メカニズムについての認知モデルを提案することである。書字エラーの認知モデルに関する先行研究は,英語圏での研究が多かったため,主にアルファベットを用いた検討が多かった。しかし,漢字はアルファベットと違い,部首があり,その空間配置(部首どうしの空間関係)が影響する文字である。そこで,漢字を用いた書字エラーに関する認知モデルの検討を行う必要がある。 平成29年度の目的は,常用漢字(小学生)における部首どうしの空間配置関係を調べ,それを空間パターンとした実験刺激の作成を行うことであった。まず,常用漢字をもとにして,対称軸(縦方向と横方向)の観点から部首が配置される空間位置および面積を決定し,刺激パターンとした(部首が占める面積は統制した)。その際,同等集合サイズ(Garner & Clement, 1963)などのパターン認知に関する理論をもとにして物理的基準を考慮した刺激パターンを作成した。全ての部首の配置を考慮した結果,19パターンが作成された。ここでは,回転変換(90度の回転によって得られる別のパターン)および鏡映変換(鏡に映したようにして得られる別のパターン)についても考慮した。次に,刺激パターンとしての頑健性を確保するため,物理的基準としての同等集合サイズと心理反応としての複雑さ判断との関連を検討した。大学生を対象とした評定課題等の認知実験を行った結果,同等集合サイズにもとづいて,複雑さ評定が変容した。これは,パターンの物理的基準と心理反応との関連について示しており,本研究で作成したパターンの実験刺激としての有用性が確認されたと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
小学生段階におけるすべての常用漢字の部首を参照し,その配置パターンの作成において時間を要した。また,当初は,パターン認知の理論として,同等集合サイズ(Garner & Clement, 1963)に基づいた刺激パターンの作成を予定していたが,他の観点も考慮すべきと判断し,その調査および部首の空間配置との関連について検討することに時間を要した。結果的に,同等集合サイズを用いて刺激パターンを作成することで,理論的説明を増すことができた。 以上より,計画はおおむね順調に進展しているとした。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度に作成した刺激パターンを用いて,平成30年度には,パターンがもつ「物理情報」と「感性情報」の関連を検討する。パターン認知においては,物理情報(物理的に定義できる基準)が重要な要因となる一方で,感性情報(物理基準だけでは定義できない心理的な基準)も影響を及ぼすことがわかっている。したがって,物理情報に加えて,感性情報も合わせて検討することが,刺激パターンに含まれる様々な情報を明らかにすることにつながる。結果的に,本研究が目指す書字エラーの解析において,エラーを分析するための多くの情報を取得することとなる。 以上を行ったうえで,刺激パターンとしての頑健性を高める。そして,平成31年度以降の実際の書字エラーの解析および認知モデルの提唱へと展開する予定である。
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Causes of Carryover |
論文投稿のための英文校訂費および論文投稿費について使用する目的であったが,これを平成30年度に行うこととして,次年度使用額が生じた。平成30年度は,当初の予定に加えて,他にも成果論文を発表することで対応したい。次年度使用額は,そのための英文校訂費あるいは論文投稿費として使用する。
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