2017 Fiscal Year Research-status Report
日本の科学コミュニケーション政策における科学技術系人材育成像の変遷
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17K17654
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
標葉 靖子 東京大学, 教養学部, 特任講師 (40713269)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 科学技術政策 / 科学コミュニケーション政策 / 科学技術系人材育成 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年, 度重なる研究不正や科学技術が関わる社会課題の発生等を背景に, 科学技術と社会との双方向のコミュニケーションやその担い手としての科学技術系人材育成への要求が高まってきている. しかしながら, 科学コミュニケーションの担い手としての科学者のあり方や求められる人材像は必ずしも明らかとされないまま議論が展開されているのが現状である. そこで本研究では, これまでの日本における科学コミュニケーションの担い手としての科学技術系人材像の変遷とその育成の政策的展開のダイナミクスを, 科学技術白書の定量的・定性的分析, 及び言説間相互の関係性の精査により明らかにする. これにより,日本の科学コミュニケーション政策が抱える構造的な課題を明らかにすることを目指す. そのためにまず初年度は,「①科学技術白書を対象とした定量的・定性的テキスト分析」を行い, 1958年以降の日本の各年代で描かれてきた科学技術をめぐる社会のコミュニケーション(科学コミュニケーション)の担い手としての科学技術系人材の育成像やその特徴的なフレーム,その歴史的な位置づけの変遷の可視化を試みた. その結果, 日本の科学技術政策および科学コミュニケーション(SC)政策における「科学技術と社会との対話」のあり方への認識が、「科学の公衆理解(PUS)」から「科学技術への公衆参加(PEST)」、そして「多様なステークホルダーとの共創」へと変化してきた中で、当初はSCの主要な担い手としては認識されていなかった研究者のSCへの貢献が次第に強く期待されるようになっていったこと, 同時に科学コミュニケーターといった新しい専門職の活躍を期待しながらも, 博士人材のキャリア問題が深刻化する中で、そうした新しい専門職を「あぶれた博士人材の出口」として位置づけるようになっている現状を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
初年度では、科学技術白書のテキストを対象とした定量的・定性的分析により、科学コミュニケーション政策のフレーミングの変化, また科学コミュニケーションの担い手として期待された人材像や研究者育成との対応関係の変遷の可視化を試みた。この試みはほぼ達成されたと考えられる。加えて、当初は二年度以降に計画していた、科学技術白書の分析結果と教育政策との対応関係の精査にも着手できている。具体的には、とりわけ1995年の科学技術基本法以降の科学技術政策文書における「社会と対話できる研究者」像の展開と, 大学院教育振興計画での具体的施策との対応関係の精査を行った。これにより、研究者の科学コミュニケーション能力涵養、あるいは科学コミュニケーションの専門家育成どちらについても、科学技術政策でその重要性がますます強調されるようになっているのに対して、大学院教育振興計画ではほぼ言及されていないこと、そうしたギャップが生まれている要因や背景について、松本(2012)の「構造災」の観点から解釈しうることを見出した。これらの成果について現在、国際学術誌に投稿中である。他にも、日本の科学技術関連人材育成政策の変遷との比較を視野に、米国における連邦レベルでのSTEM教育の予算動向についての調査を行った。その結果は、『科学技術コミュニケーション』(Japanese Journal of Science Communication)23号で発表予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の分析結果を元に、「②定量的・定性的分析の結果と政策的展開の対応関係(反映,言及の有無)の精査」を行う. 具体的には, 関連する審議会資料や各種意識調査, 教育政策文書とも照合し, 当該文言の背景,文脈まで視野に入れた言説分析を行う. 特に科学技術人材育成の政策的展開については, 科学技術政策研究所の重要施策データベースを活用し, 高等教育, イノベーション,産学連携等の各種政策と目標とされた科学技術系人材像との対応関係(反映, 言及の有無, 引用・影響関係)のさらなる精査を行う. さらに②で明らかにした対応関係を踏まえ,「③関連政策担当者や国内外のキーパーソンへのインタビュー調査」を行い, 科学技術系人材の育成像の視点から, 日本の科学コミュニケーション政策が抱える構造的課題に関する知見の不在を克服する.
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Causes of Carryover |
論文投稿・査読対応に伴う英文校正費用が一部執行されなかったためである。現在論文投稿中であり、査読結果が戻り次第、当初の予定通り査読対応での英文校正費用として執行予定である。
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Research Products
(1 results)