2018 Fiscal Year Research-status Report
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17K17667
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Research Institution | Meiji Gakuin University |
Principal Investigator |
土肥 歩 明治学院大学, キリスト教研究所, 研究員 (10731870)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 中国 / 華南 / キリスト教 / 災害 / 宣教師 / 地域社会 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の主たる研究成果として、以下3点について説明する。 1,2017年12月に行った学会報告をもとに論文「民国初年の「神像破壊」をめぐって:鍾栄光と陳景華」(『史潮』第83号、2018年6月、36-58頁)を発表した。この論考は、辛亥革命直後の広東省で行われた偶像破壊運動について取り上げている。ただし、20世紀初頭に発生した広西での災害(壬寅奇災)において、救済活動に従事した行政官陳景華のその後活動にも焦点を当てた。本論考を通じて、壬寅奇災の救済活動において彼の活動が欧米人から高く評価されている点を指摘した。 2,2018年11月23日に国際基督教大学で行われたシンポジウム「アジアと向き合うキリスト者 その歴史と未来:武田(長)清子を記念して」で報告を行った。報告タイトルは「民国初年の太平天国イメージ」と題し、辛亥革命直後の社会において、19世紀に発生した太平天国の遺族たちが名誉回復を行おうとする様子を論じた。 3,年度内に進めていた研究をもとに論文「対華二十一箇条要求と中国キリスト教界」(『明治学院大学キリスト教研究所紀要』第51号、2019年1月、237-261頁)を発表した。この論考は、第一次世界大戦中の日中関係と中国キリスト教界の関係について考察を加えたものである。特に、宣教師の日中関係認識について中国語資料や英語新聞などを用いて事実解明を行った。 これ以外に本研究課題で得られた知見を大学での非常勤授業で紹介し、中国近現代史における本研究課題の重要性を説明する機会を設けた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の目的は、広西省で発生した災害や反乱について考察することであるが、本年度は研究を遂行するための周辺知識について理解を深める機会を得たと位置づけられよう。 ただし、隣接分野に関する研究論文を執筆・発表すると同時に、これまで十分に検討できなかった中国語および英語の文献を入手し、さらに知識を増やすことができたことは、2018年度の研究の大きな収穫といえる。たとえば、19世紀末から20世紀初頭にかけて広西省で発生した民衆反乱の経緯について論じた文献を精査したり、広西省に派遣された宣教師の伝記を通じて災害救済事業について理解を深めたりすることができた。そのため、本研究課題に直接結びつく研究論文を発表することはできなかったが、2019年度にむけて準備を進めることができた。 こうした基礎的な作業を通じて、確認することができたのは以下の2点である。1つは、同時期の民衆反乱が自然災害によって大規模化していた、という事実である。もう1つは、キリスト教伝道の歴史においては、同時期の治安悪化についてはあまり多くが語られていないという問題点である。この2点を踏まえて2019年度の研究を進めていきたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は本研究課題の最終年度に当たる。そのため、学術雑誌への論文投稿を目指している。ただし、過去2年間の資料収集と論文投稿で得られた査読意見を総合した場合、議論の軸足を以下3つに絞る必要があると考えるようになった。 1,中国在住のプロテスタント宣教師と在広州アメリカ総領事が組織した「アメリカ救済遠征隊」による救済活動。 2,英領香港の植民地政庁と香港在住の中国人有志によって組織された「広西飢饉のための飢饉委員会」による救済活動。 3,中国人が運営する慈善団体(善堂)と中国当局が行った救済活動。 今後の研究は、これら諸団体の救済活動が災害発生によって深刻化した民衆反乱をいかに抑止したのか、という観点から進めたい。そして、3つの論点のなかでも、第1点目については学会報告などを通じて研究を進めているため、すぐに論文の執筆に取りかかるつもりである。第2点目と第3点目についてはその後随時論文を執筆したいと考える。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由:本務校決定につき、2018年12月から2019年2月にかけて東京から京都への転居作業に追われた。そのため、本来予定していた海外での資料調査を年度内に行うことができなくなってしまった。 使用計画:本年度の夏期(2019年8-9月)もしくは春(2020年2-3月)に、アメリカもしくは香港で資料調査を行う。もし学内業務で出張が難しい場合は、マイクロフィルム購入費用に充てる。
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