2018 Fiscal Year Research-status Report
建築デザインの創造的プロセスを支えるVRを用いた対話ツールの構築
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17K17685
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
酒谷 粋将 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特別研究員 (20772148)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | VR / 対話による設計 / 設計ツール / 設計プロセス / コラボレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
VRを設計ツールとして用いることを想定し、その空間の経験が設計プロセスに与える影響を捉えるべく、空間に関する既往理論を参照しながら、VRを通した空間の経験の特性について整理した。また具体的なオブジェクトをつくりながら対話を行うことができる設計ツールを開発・実装した。それぞれの具体的な内容は以下の通りである。 1)VRを通した空間の経験が設計プロセスに与える影響 VRについての理論的枠組を建築空間に関する諸理論を参照しながら設定し、前年度に実施した実験で得られた設計プロセスの分析を行うことにより、VRを通した空間の経験が設計プロセスに与える影響について考察を行った。その結果、VRによってユーザーの身体に基づいた空間の評価が可能になることや、そのことがユーザーの積極的な設計プロセスへの関わりを促すといったVRの有効性を指摘した。そしてユーザーの要望のフレームが変化し、それまで抱いていなかった潜在的なニーズが引き出されるリフレームのプロセスへの影響についての示唆を得た。また周囲との関係性のなかで建築空間を評価するという高次の空間認識が、VR内での移動行為を通して可能になるという、ユーザーの空間認識が発展する事例を捉えることができた。 2)VR空間の中で「つくりながら考える」設計ツールの開発 複数人がVR空間の中で仮想のオブジェクトを作成しながら、互いに対話を重ね、空間の価値を探究できる場を構築した。そしてこのツールを用いた設計実験による検証を通して、①つくる行為の中で、仮説的な設計解の検証や、その行為の中での省察が行われる、②実験中の会話の中で「そこ」「それ」などの指示語が頻繁に現れ、実空間と同様の空間体験の共有が行われる、③VR環境においては、図面や模型からは感じ取りにくい、「開放感」や「窮屈さ」といった抽象的な空間的感覚が生じる、といったツールの特徴を捉えることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は前年度に実施した設計実験の記録を分析するための理論的枠組みを、既往の空間理論を参照しながら構築し、設計ツールとしてのVRが持つ機能や効果についての知見を集めた前年度の研究を展開して、そうした機能・効果を発する仕組みやメカニズムについての理解を深化させることができた。また、そうした研究に並行して具体的な設計ツールの構築・実装を行い、特に単に設計された空間をVR内に設え、その中を移動して体験することができるという機能にとどまっていた前年度のツールを発展させ、VR空間内にいながらその体験者が具体的なモノを作り、空間や環境にはたらきかけることができる機能を追加することができた。このような理論的研究と設計ツールの実装の内容を論文としてまとめる作業も進行していることから、研究は「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに設計ツールとしてのVR空間が持つ可能性についての考察や、具体的な対話ツールの開発を進めてきたが、それらはどれも頭部に装着することでVR空間を体験できるヘッドマウントディスプレイ(HMD)の使用を想定するものであった。VRの体験には不可欠なHMDは日々改良が重ねられ新しい製品も次々と開発されているのであるが、その一方でHMDを実際の設計の場面で使用することには少なからず費用面、労力面でのコストがかかり、その参加障壁は小さくない。機器の進化に伴ってその障壁は少しずつ小さくなるものと思われるが、HMDの技術的発展を待つだけでなく、VR空間とそれを体験する人間のインターフェースとして何を位置づけるのかを改めて問い直す必要があるという考えに至っている。例えばWeb上の情報にアクセスするPCやスマートフォンのインターネットブラウザはすでに我々の日常の生活に溶け込んでおり、こうした我々がこれまでに少しずつ慣れ親しんできたインターフェースを通して体験する空間も、HMDを通して体験するそれと同様にVR空間として捉える必要も生じてくるだろう。次年度はこれまでと同様にVR空間を活用した設計ツールの開発を継続しながらも、そうした開発の実践を通して、VRの概念のそもそもの定義を問い直し、その理論を体系化していく。
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Causes of Carryover |
(1)設計実験で得られた設計プロセスの分析の成果を論文として整理したが、その刊行が次年度にずれ込んだことから、論文投稿料や学会発表のための旅費等の予算を確保するために前年度の予算使用を控えたことや(2)理論的研究や前年度の実験結果の分析等が本年度の主な作業となったことから、特に新しい機器の購入等のための費用が不要であったことが主な理由として挙げられる。次年度は、これまでの比較的簡易なVRツール開発だけでなく、より多くの設計主体が関われる大規模な設計ツールを構築する予定であり、専門性の高い開発技術をもった本研究の協力者との連携が不可欠となる見込みである。そのための謝金等の支払いが次年度に使用する予定の予算枠の大部分を占める見込みである。
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