2018 Fiscal Year Research-status Report
発達障害支援専門職における多職種連携実践力をささえる学びの過程の解明
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17K17699
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
森脇 愛子 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任研究員 (50573557)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 多職種連携協働 / 多職種連携教育 / 発達支援 / 発達障害 / 専門職 / 学びの過程 / コンピテンシー |
Outline of Annual Research Achievements |
発達障害児者への発達支援に携わる専門職において、多職種連携協働(;IPW)の実践をささえる学びの過程と、効果的な機会・環境・方略等の促進要因解明を目的に、後方視的/前方視的な2つのアプローチを用いて研究を行っている。 ―研究1:後方視的アプローチ IPWの熟達者の回顧的報告から、専門職のCompetencyとそれを学び体得してきた経験や過程を分析する。Competencyは「個人が持つ潜在能力と、その個人が環境へ働きかけて自らを発揮させる態度」と定義され、知識理解・技術・行動・特性(態度)・社会的環境・セッティング事象などの汎用的概念を含む。これまでの調査では個人的なCompetencyの認識構造を抽出してきたが、今年度はそのCompetencyにも職種を超えた共通性や普遍性があると仮定して、複数人の回答内容をテキストマイニング手法で計量的に分析し、中核的なCompetencyを見出すことができた。また同時に、IPW実践のための自発的な行動や学びを維持する要因(個人的経験・現象の変化・環境・文脈的要因など)を分析するため、学校教員と教育関係専門職を対象とした質問紙調査を行った。 ―研究2:前方視的アプローチ 連携初心者や養成段階の人への多職種連携教育(;IPE)を行い、連携実践力を学ぶ過程の追跡的検討を行う。2グループを対象としたIPE実施に向けた準備を行ってきた。第1グループは拠点型(同職場内での学び合い)、第2グループはマルチエリア型(広範囲なエリアにいる専門職の集合)として形態を変えて実施する。IPEプログラムには、多職種のパネル/対話形式のほかにも、個人潜在的なCompetencyを発見するセルフワークや、地域の専門機関・専門職マッピング、個人や機関を有機的に結ぶネットワーキングを目指したグループワークも組み入れることとした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
―研究1 本年度も面接調査を継続し、対象者数を増やすことができた。対象者1人当たりにかける面接調査時間は長くなるが、PAC分析(個人別態度構造分析)など個人的経験や学びのプロセスの回顧・省察には質的に重要な内容が含まれており、研究参加者にとってもメリットがあったようである。また複数の対象者から得られたCompetencyの内容が集積できたので、当初の予定以上のCompetencyの共通性の分析と中核的エレメントの抽出に至った。専門職のIPWをささえるCompetencyもカテゴリー化やリスト化できる可能性が出てきたので、本研究の一成果としてコンテンツ作成を検討したい。また実践や学びの過程において、専門職個人の潜在的能力としてのCompetency以外に、これを現場で生かすことができる「環境要因」や「文脈的要因」が重要であることも一方で課題として見出されたため、それらを精査するための質問紙調査も企画した。研究の結果は国内学会等で一部発表した。 ―研究2 研究代表者の異動に伴い、当初予定していたIPEのフィールドの変更を余儀なくされたが、今年度新たな研究協力者を得ることができ、IPE本格実施に向けて準備を急ぎ進めている。IPE参加希望者の所在エリアの拡大の課題と、持続可能性のあるIPE実施のための学習方略を考慮する課題があったが、それらを統合するような形式として拠点型とマルチエリア型の2タイプのグループ設定ができたことで実施に大きく近づいた。遠隔会議システムなどのユーザビリティの高いインターフェイスの導入も仮定し、日々多忙な専門職の働き方にも考慮している。プログラム内容は研究代表者が主催するIPW自主研究会のメンバーからのフィードバックを受けて、次年度の実施に向けて準備した。
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Strategy for Future Research Activity |
―研究1 これまで得られた成果から、後方視的な学びの過程モデルの検討を行う。専門職のIPWをささえるCompetencyの構成要素およびその学びの促進要因としての環境や文脈的因子についても考察する。アウトカムは学会および論文で公表する。 ―研究2 実践計画に沿って、2グループ対象にIPEを行い、その結果を分析する。前方視的な学びの過程の追跡の中で、初学者やIPWに不慣れな専門職にも実践の機会と具体的行動を起こしやすくする環境と文脈の設定に配慮する。加えて、IPE参加者の多職種連携の学びの過程が可視化され、その軌跡を集積することで専門職の学びのモデル提示を行うことまでを本研究の最終成果としていきたいと考えている。ひいては、多職種連携によって発達支援がより効率的・効果的になり、何よりも発達障害のある子どもやその家族へメリットが還元できることを臨床的な最大の目的として取り組む。
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Causes of Carryover |
今年度の未使用額が生じた理由は研究2のIPE実践を次年度に先送りしたためである。今年度は研究フィールドとの調整および運営準備に期間に充てたため、IPE実施に係る費用を使用せず、次年度に繰り越すこととした。また、研究1の面接調査の聴取記録は、当初、研究補助者に逐次起こしを依頼する予定であったが、音声認識システムによる自動文字化を用いることができたため、それに係る謝金や時間の費用が削減された。 次年度は主に研究2のIPE実践において会場・会議費・雑費などの使用額が増える予定である。またIPEの一部は遠隔会議システムを導入して実施したいと計画しており、そのためのデバイス(PCないしiPad)およびソフトを購入する費用に充てたい。なお、研究成果報告のための学会参加費・旅費も計上する。
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