2017 Fiscal Year Research-status Report
溶解性多糖モノオキシゲナーゼの電極反応を利用した酵素バイオ電池の開発
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17K17703
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
武田 康太 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 特任助教 (20781123)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | PQQ / 酵素電極反応 / 結晶構造解析 / 木材腐朽菌 / バイオ燃料電池 |
Outline of Annual Research Achievements |
糸状菌類は自然界に置ける植物細胞壁分解を担う主要な生物種であるため、セルロース系バイオマスの有効利用技術開発という観点から、その生物機能が注目される。近年、糸状菌によるセルロース分解プロセスには、セルラーゼによる一連の加水分解反応に加えて、酸化還元反応の関与が重要であることがわかってきた。セルロースを酸化的に低分子化する溶解性多糖モノオキシゲナーゼ(LPMO)は、セルラーゼと協調的に作用し、結晶性セルロースの分解効率を飛躍的に高める酵素である。LPMOによる酵素反応には外来からの電子供給が必要となる。その生理学的な電子供与体は未だ不明であるが、セロビース脱水酵素(CDH)のシトクロムドメインが、電子供与体として機能することが報告されている。本研究課題以前の我々の研究において、糸状菌の一種であるCoprinopsis cinereaから新規ピロロキノリンキノン(PQQ)依存性ピラノース脱水素酵素(CcPDH)を見出し、本酵素がセルロース分解に関連する酸化還元酵素であることを示唆する結果を得ている。CcPDHは上述したCDH様のシトクロムドメインを有しており、LPMOへの電子供与体として機能することが考えられる。本課題では、木材腐朽菌の酸化還元酵素のバイオエレクトロニク分野への展開を提示し、セルロース系バイオマス変換技術の一つとして提案することを目指した。具体的には、電極反応とLPMOの電子移動反応が共役した酵素電極反応系を構築し、電気化学的にLPMOの機能解析を行うこと、LPMOへの電子供与体となりうるCcPDHに関する構造学的知見を得ること、最終的にこれらの酵素電極反応を組み合わせて、セルロースを燃料とする酵素バイオ電池を構築することである。本年度は、糸状菌由来のLPMOの発現系構築による大量生産と、CcPDHの立体構造解析に取り組んだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
糖関連酵素データベース(CAZy)に分類されているLPMOのファミリーのうち、Auxiliary Activity 9 (AA9)に属するLPMOがセルロースに特異的に反応する。既報で解析が進められているNeurospora crassa由来AA9の酵母菌Pichia pastorisを宿主とした発現を試みたが、発現量が低かったことから、現在、大量発現系の構築を試みている。 一方でCcPDHに関しては大きな成果が得られた。本酵素は触媒反応部位であるPQQドメインに加えて、シトクロムドメインとセルロース結合性ドメインを有したマルチドメインタンパク質である。組換え発現により得られたアポ体PQQドメインにPQQを導入し、ホロ化したサンプルを用いてバッチ法で結晶化を行った。良質な結晶が得られ、X線結晶構造解析により1.8 Åの分解能で立体構造を決定した。その結果、活性中心にPQQが結合したホロ体PQQドメインの立体構造を明らかにすることができ、CcPDHが真核生物由来で初めて発見されたPQQ依存性酵素であることを証明できた。PQQの結合様式に関して、アミノ酸配列解析と合わせて担子菌類に特徴的なPQQの結合アミノ酸残基があることがわかった。ストップトフロー法から、各pH条件下での基質の酸化に伴うPQQドメイン内のPQQ還元速度を算出した。人工電子受容体を用いた定常状態における酵素反応速度との議論から、PQQの再酸化反応よりも還元反応が律速となっていることが示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
現在のところ、CcPDHを対象とした研究計画が最も順調に進んでいるため、平成30年度のできるだけ早い時期に、これまでの成果を学術論文としてまとめる。さらに、ドメイン間およびタンパク質間電子移動に関する基礎知見を得るため、全長CcPDHの立体構造解析に取り組む予定である。 一方で、AA9に関しては研究協力者との共同研究を行い、主に褐色腐朽菌Gloeophyllum trabeum由来のAA9を対象として進めていく予定である。この酵素については既に大量発現システムが確立していることから、タンパク質の調製が容易である。平成30年度前期は、G. trabeum由来AA9の酵素電極反応の構築を目標とする。電極から直接電子移動反応を進行させるDET型と、電子メディエーターを仲介させるMET型のそれぞれの検討を行い、効率的な電子移動反応とそれに続くセルロースの酸化的分解を目指す。後期は、セルロースを基質としてセルラーゼと各酵素電極の複合系の検討を行う。AA9の添加によりセルラーゼ活性が上昇する相乗効果が報告されているので、電流値だけではなく、AA9をカソード触媒とすることによる、セルラーゼ活性の相乗効果についても評価する予定である。最終的にセルロースを初発基質に各酵素電極とセルラーゼを用いたバイオ電池を作製し、出力や耐久性といった観点から電池特性の評価を行う。 得られた結果については、学会発表のみならず学術雑誌にもその成果を公表する予定である。
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Causes of Carryover |
発現量の少なかったNeurospora crassa由来AA9の組換え発現系の再検討および、新規に全長CcPDHの結晶化実験を行うため、新たにコストがかかる事が見込まれた。したがって、予定額に次年度使用額を加えて物品費として執行する計画である。
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Research Products
(10 results)