2018 Fiscal Year Research-status Report
ピロリ菌のシアル酸転移機構とその潜在的免疫修飾作用の解明
Project/Area Number |
17K17712
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
岩谷 駿 東京工業大学, 生命理工学院, 助教 (80608373)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 細菌学 / 疫学・予防医学 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度の研究成果により、ある特定地域由来のピロリ菌において、複数のシアル酸発現候補株(ST陽性株)を取得している。また、一部の候補株からシアル酸転移酵素のホモログ遺伝子(ST1/ST2遺伝子)をクローニングすることに成功している。以上を踏まえ、平成30年度は以下の実験を行なった。 ① シアル酸合成・転移酵素遺伝子群の発現解析:in vitroで培養したST陽性株のmRNAを解析し、上記全ての遺伝子の発現を確認した。一方、抗シアリルLeX抗体を用いたブロット解析では陰性を示す株(Sialyl-LeX陰性株)も存在したことから、同遺伝子群の塩基配列を詳細に解析したところ、Sialyl-LeX陰性株では、ST1/ST2がいずれも完全長で存在しない、または塩基欠損によるフレームシフトが起きていることが確認された。他方、ST1のみを完全長で有する株は、Sialyl-LeX陽性を示したことから、ST1/ST2いずれか単独でもシアル酸転移機能を有することが示唆された。 ② ST1/ST2組み換えタンパク質の機能解析:大腸菌C43株を宿主として、GST融合ST1/ST2両タンパク質を発現させた。両発現株の菌体破砕液においてシアル酸転移活性が確認された。また、精製タンパク質を用いたST1/ST2の酵素学的評価を行なった。 ③ 免疫細胞に対する反応性試験: ヒト由来の細胞株を用いたin vitro試験により、Sialyl-LeX陽性株の病原性評価を行なった。マクロファージ状に分化させたTHP-1細胞に対し、Sialyl-LeX陽性2株、Sialyl-LeX陰性2株(コントロール)を感染させ、一定時間後の炎症性サイトカインの産生量を比較した。その結果、両グループのIL-8産生量に有意な差が確認された。また、各ピロリ菌株から抽出したLPSを添加した実験においても同様の結果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
最終的に確認されたSialyl-LeX陽性ピロリ株は5株と少数であったことから、疫学的な知見を得るには至っていない。一方、これまでの研究結果から、ピロリ菌においてもシアル酸合成・転移酵素が発現・機能していることが証明され、「ピロリ菌はシアル酸を持たない細菌である」という通説を覆す結果が得られている。また、in vitro試験の結果から、これらシアル酸転移の有無がヒト免疫細胞に対する反応性にも影響を与えることが示唆されており、今後の研究に繋がる成果が得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画通り、ヒト細胞株を用いたin vitro試験や、マウス感染モデルを用いた動物実験を進め、ピロリ菌のもつシアル酸転移機構とヒト免疫機構との相互作用を解析する。また、シアル化糖鎖の詳細な様式を明らかとするため、Sialyl-LeX陽性ピロリ株のLPSの構造解析を進める。
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Causes of Carryover |
前年度に引き続き、研究協力者との打ち合わせを遠隔で行なったこと、また、当初参加を予定していた関連学会への参加を見合わせたことにより、予定していた旅費を使用せずに済んだ。 また、直接経費の内訳に関して、当初予定していた外部解析機関への委託作業を自前で行ったため、「その他」として計上した作業委託費が減り、その分、物品費(解析に要した試薬消耗品費)が増額となった。 以上の差額については、次年度の必要試薬購入費に充てるほか、関連学会の参加費、論文掲載費として使用する。
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Research Products
(5 results)