2018 Fiscal Year Research-status Report
胃癌抑制分子αGlcNAcを生合成する糖転移酵素α4GnTの発現制御機構の解明
Project/Area Number |
17K17779
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
小村 仁美 信州大学, 医学部, 特任助教 (30616032)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | αGlcNAc / 糖鎖 / α4GnT / 糖転移酵素 / 発癌 / 遺伝子発現 / Chst4 |
Outline of Annual Research Achievements |
胃の腺粘膜液には、ピロリ菌から胃粘膜を防御している糖鎖構造であるαGlcNAcを有するO-グリカンが存在する。当研究室で、胃と十二指腸で、αGlcNAcの生合成を担う唯一の糖転移酵素であるヒトα4GnTを単離した。全てのA4gntノックアウト(KO)マウスは、ピロリ菌非存在下でも胃の幽門部に分化型腺癌が発生し、αGlcNAcは、分化型腺癌の発生を抑制していた。マウスの胃におけるα4GnTの発現量を経時的に観察することは、マウスのみならず、ヒトでも同様の機構で発癌が制御されると考えられ、重要である。αGlcNAcが結合するムチンコアタンパク質MUC6、そして、MUC6と結合し、胃癌との関連が報告されているTFF2やTFF1に関しても同様の実験を行い、比較、検討した。また、これら分子の局在変化も合わせて調べた。 胃腺癌細胞はスルホムチンを分泌するが、腫瘍形成におけるそれらの役割は不明であった。当研究室では、スルホムチンが発癌に関与する可能性を考え、A4gnt KOマウスに、スルホトランスフェラーゼGlcNAc6ST-2が欠損しているChst4 KOマウスを交配させ、A4gnt / Chst4ダブルノックアウト(DKO)マウスを作製した。予想に反して、DKOマウスは、胃腺癌を発症した。しかしながら、DKOマウスは、3週齢で重度のびらんが発生し、加齢と共に嚢胞性胃深部肥厚(GCP)が生じた。この病因に関与している因子を明らかにするために、定量的RT-PCRを行った。具体的には、炎症性ケモカインCXCL1、CCL2、およびCXCL5、炎症誘発性サイトカインIL-1βおよびIL-11、ならびに成長因子であるHGFやFGF7の発現レベルを調べた。また、これら分子の特異的受容体であるCXCR2、CCR2、IL1R1/IL1R2、IL11RA1、MET、FGFR2も同様に調べた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
胃癌抑制因子αGlcNAcの生合成に関与する唯一の糖転移酵素α4GnTが、マウス発生のどの段階から発現しているかは、いまだ明らかではない。α4GnTKOマウスの胃の幽門粘膜では、ピロリ菌非感染でも、5週齢で過形成が観察されることから、α4GnTの発現は胎児期に始まっていると考えられた。そこで、野生型マウス胎児の胃から抽出したRNAを用い、定量的RT-PCR法によって、α4GnT発現レベルを測定、比較した。この結果、α4GnT発現はE(embryonic day)13.5から始まり、E19.5にかけてその発現量は急激に増加することが明らかになった。また、MUC6、TFF1、TFF2は、E15.5から発現上昇が見られ、発現量は急激に増加していった。HIK1083抗体によるαGlcNAcの蛍光免疫組織染色も行ったが、E15.5から胎児の腺粘液細胞と思われる部位に強い局在が見られた。α4GnT発現が見られたE13.5より後でαGlcNAcの局在も見られ、α4GnTがαGlcNAcを生合成する唯一の糖転移酵素ということから考えても妥当な結果である。 次に、過形成と重度のびらんを示す5週齢のA4gnt / Chst4 DKOマウスの胃粘膜において、Cxcl1、Cxcl5、Ccl2、およびCxcr2の発現は、過形成を示した同週齢のA4gnt KOマウスと比較して、有意に増加した。しかしながら、これらの発現増加は、高度異形成/腺癌およびGCPを示す50週齢のDKOマウスでは消失した。さらに、Cxcl1およびCxcr2に関して、腺癌のみを示す50週齢A4gnt KOマウスと比較して、DKOマウスでは減少した。これらの結果は、スルホムチンは、間接的に、5週齢で炎症関連遺伝子、Cxcl1、Cxcl5、Ccl2、およびCxcr2を一過性に調節することによって、胃癌の発症に関連することを示す。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までに、野生型マウス胎児の胃発生におけるα4GnTおよびその関連分子の発現を定量的RT-PCR法により経時的に観察した。α4GnTはE13.5でその遺伝子発現を開始し、MUC6、TFF1、TFF2はE15.5から発現し始め、その発現量は発生が進むに従って著しく増加した。また、蛍光免疫組織染色法により、αGlcNAcの胎児胃の腺粘液細胞における局在はE15.5から始まることを確認した。この時期でのα4GnT発現上昇が、胃の上皮細胞の異常な増殖を抑制すると考えられる。そのため、α4GnTの欠損により、各種関連遺伝子の発現開始のタイミングや発現量に、どのような変化が見られるのかを明らかにするため、A4gnt KOマウスを用いて同様の実験を行う。また、A4gnt KOマウスで各種関連遺伝子の発現パターンに変化が見られた場合、これら分子の転写に関わる因子の発現やその分子局在に影響するのかも、同様の手法で調べたいと考えている。現在は、A4gnt KOマウスを繁殖させ、各胎生日齢の胎児胃サンプルを集めている。令和元年度中に学会発表および論文発表を行う予定である。 また、粘膜の中層から深層にかけて存在する副細胞、幽門腺細胞、噴門線細胞からなる腺粘液細胞から分泌される腺粘液の中にMUC6と結合したαGlcNAcは存在するが、蛍光免疫組織染色法により、これらの細胞のマーカー分子に対する特異抗体を用いて共局在を調べ、発生段階で変化するのかを明らかにしたい。また、MUC6と結合することが知られているTFF2と、αGlcNAcの共局在が野生型マウス発生段階において変化するかどうかも、蛍光免疫組織染色法により詳細に調べる予定である。
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Causes of Carryover |
平成30年度の研究で次年度使用額が生じた理由であるが、当初予定していたA4gnt遺伝子プロモーターを活性化する転写因子の同定や、胃特異的なヒストン修飾によるα4GnT遺伝子の制御に関する実験を取りやめたため、これらの実験に使用予定であった実験キット、放射性同位体、各種阻害剤等の購入は行わなかったことによる。 また、RNA抽出キットや各種酵素および試薬類、プラスチック製品等は研究室ですでにまとめ買いしていたものを使用することが出来たため、平成30年度に関して、これら消耗品の購入額は当初の見込みよりも執行額が低くなっている。 次年度使用の計画に関しては、蛍光免疫染色で使用する特異抗体で所属研究室にないものを複数購入予定であることと、TaqManプローブを新たに複数購入予定である。また、RNA抽出キットや各種酵素、プラスチック用品等の消耗品等の購入も検討している。得られた研究成果に関して学会発表したいと考えており、そのための学会参加費、滞在費などもかかる予定である。また、研究成果は論文発表することが決まっており、英文校閲費や投稿費用に充てたいと考えている。
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